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一瞬で基幹インフラを麻痺させる恐るべき脅威

中国が実際に配備し始めているEMP(電磁パルス)攻撃に備えよ 2014.03.04 矢野 義昭

EMP(電磁パルス)攻撃は今や、最も可能性がありかつ破壊度の大きい重大な脅威になっている。その脅威の実態と対策について、John S. Foster, Jr. etc「特別報告2004年」『米国に対するEMP攻撃の脅威評価に関する委員会報告』第1巻、2004年に基づき、分析する。

1 EMP攻撃への対策の必要性

 EMP攻撃は、核爆発時に瞬時に発生し、その威力は水平線までの広範囲に届き、死活的なインフラ、先進国の社会およびその影響力と軍事力投射能力に深刻な損害を与える能力を持つ。

 人命に直接の損傷は与えないが、それだけに使用される可能性も高く、核爆発によりもたらされる恐れのある、数少ない脅威の1つである。また現在では、通常爆弾でも致命的なEMPを発生する特殊な爆弾も開発されている。

 EMPの直接的な衝撃は、防護されていないすべての電子機器に波及する。その結果EMPは、電子機器に依存する社会と軍隊のあらゆる側面、および各種の死活的なインフラに浸透することになる。

 先進国では、電子機器への依存が深まり、それにつれてEMP攻撃に対する脆弱性が日々増大している。

 EMPの衝撃は、電子機器にそれほど依存しない潜在敵対者にとっては、非対称に作用する。このような先進国の脆弱性が是正されなければ、潜在的な敵対者の攻撃を誘発しかねない。他方、EMPに対する脆弱性の是正は、国家が持っている手段と資源の中でも達成が可能であり、それゆえに早急な対策が必要不可欠である。

2 EMP攻撃の脅威

 1発の米国上空の高高度核兵器爆発により発生したEMPにより、米国の社会の安全が危機に曝され、軍事的敗北を招きかねないと、米国の上記報告書はEMPの脅威を強調しているが、そのメカニズムは以下のとおりである。

 1発の核爆発で発生したEMPは、地球上の大気、イオン層、磁場と相互作用を発生するが、その効果には直接、間接の両面がある。直接的効果は電子機器への衝撃である。間接的効果は、衝撃を受けた電子機器の破壊により、それらが組み込まれたコントロールシステムなどに与える影響である。間接的な効果は、直接的効果よりもその影響は大きい。

 電磁波の衝撃により電子機器を破壊するというEMP攻撃の特性により、主要なインフラに連鎖的効果が発生する。そのため、連鎖的影響を受けた各種のインフラの復旧は遅れ、安全が損なわれ、国家活動も低下することになる。

 まず電力インフラが損害を受け、通信、エネルギー、その他のインフラに波及し、金融システム、食料と水の供給、医療提供、貿易、生産活動とサービス業などに深刻な影響が出る。さらに電力などの供給停止が長引けば、これらの各種インフラの復旧も不確実になる。また供給停止が複合効果を持てば、復旧が不可能になる恐れもある。

3 EMP攻撃を行ない得るアクター

 EMPは新しい脅威だが、かつてのソ連と現在のロシア、その他の核保有国は潜在的にEMPをもたらす能力を持っているが、核兵器の効果としては破壊力を主としており、EMPは副次的効果として扱われているに過ぎない。

 冷戦間米国も、EMPによる民生用インフラの破壊は試みず、市民の安全を確保しつつ抑止することを目指したとされている。しかし現在は冷戦時代とは異なり、EMP脅威の発生源の一部、テロリストなどは抑止が困難であり、数発の核兵器しか持たない北朝鮮やイランもEMP攻撃の能力を開発している可能性があるとみられている。

 ある種の低出力の核兵器は広範囲にわたりEMP効果を及ぼし得るが、そのような設計をされた核兵器が過去25年間に秘密裏に輸送された可能性がある。

 中露は限定的核攻撃の選択肢を持っており、状況によってはEMPを主たるまたは唯一の攻撃手段として行使する可能性がある。1999年のNATO(北大西洋条約機構)のユーゴスラビア攻撃時、米国との協議でロシア議会議員は、米国を麻痺させるロシアのEMP攻撃の可能性を示唆したとされている。

 過去との相違のもう1つの局面は、米国が他の国以上に電子遠隔通信に各種の死活的インフラを依存するようになったことである。

 この非対称性は、脆弱性を生み、米国にとり破滅的となり得る相互依存を生んだとみられている。テロリストやならず者国家は、初歩的なミサイルや核兵器により、都市や軍事基地を攻撃する代わりに、数発の核兵器で最大の政治的軍事的効用を生むため、EMP攻撃にそれらを使用するか、または使用すると脅す可能性があるとされている。

4 被害様相

 地表面から40キロから400キロの高度で、核弾頭が炸裂した場合のEMP効果により、直ちに電子機器と電子インフラは破壊される。1962年太平洋のジョンストン島上空400キロでの核爆発では、1400キロ離れたハワイの電子機器とシステムが影響を受け、街灯が消え、ブレーカーが飛び、警報機が鳴り、遠距離通信システムが損傷を受けた。

 ソ連は、300キロトンの核兵器を300キロ、150キロ、60キロ上空で爆発させたが、いずれも600キロまでの地表と地下のケーブルが影響を受けたと報告されている。EMPは全米以上の広さの電子システムに障害を与え得るが、特にガンマ線は光の届くすべての範囲に到達する。

 EMPの第1波は10億分の1秒で生起し、通信、防護システム、コンピューターを破壊し、広範囲に同時に発生する。第2波の中間的な時間に励起されるEMPは、同じ範囲で発生するが、死活的インフラは雷対策程度の対策で影響を避けることができる。

 EMPの第3波は、ゆっくり励起しその効果は長く持続する。第3波により変電器に大電流が流れ、配送電系統に重大な損傷が生ずる。この損傷は、初期のEMP波による損傷と複合して、より深刻な損傷を与え、全米の7割の電力がその影響を受けると見積もられている。

 低出力の核兵器のテロは、地表爆発、化学・生物兵器、サイバー攻撃とも併用される恐れがある。このようなテロを防止するための国際的な環境醸成のため、核兵器入手の抑制と相互に受け入れ可能な抑止能力の提供を各国に説得する必要があるとされている。

 核兵器の材料物質と投射手段の入手の阻止も必要と見られている。ただし、核分裂物質などの入手はコストが大でリスクもあり可能性は少ない。むしろ、EMP攻撃の脅威が今後増大し、テロ対策の主対象になるとみられている。

 そのためにも、EMPへの脆弱性を改善し、インフラの復旧が早まるように努めるとともに、テロリストに対し核兵器の安価な投射手段を与えないことが肝要であるとされている。

5 EMP被害対策

 米国の場合、最も重大なインフラの脆弱性対策は連邦の責任とされている。脆弱性を下げれば、攻撃への誘引も低下するとされ、攻撃を抑止するためにも脆弱性の低減が重要とみられている。

 EMP対策として、上記報告書では、以下の諸施策を実施することが勧告されている。

(1)米国に対するEMP攻撃への誘引を低下させるための、情報、妨害、抑止方策の追求
(2)損害を受ければ修理に長期の復旧時間を要する、死活的なインフラ要素の防護
(3)死活的なインフラの状態を監視し評価する能力の維持
(4)EMP攻撃の察知と他のインフラ破壊とどのように形態が異なるかについての理解
(5)死活的インフラ復旧への組織立った活動のための実行計画の作成
(6)訓練と評価の実施、緊急対策チームの育成、及び定期的な議会への報告
(7)行動のための連邦政府の責任と権限の明確化
(8)対策を採ることによって期待される利益配分のチャンスについての関係者の承諾
(9)各種のインフラシステムへの効果についての研究、および費用対効果の高い効果的管理手法についての研究の実施

 なお、これらの諸施策に要する3年から5年間のコストは、対テロ戦争などのコストよりも安価であると見積もられている。

6 電力系統の防護策

 電力系統はその一部が重大な損害を受けた場合に、その負荷や発電量に応じて「島」のように分離されるよう設計されているが、EMP攻撃に際しては、被害のなかった地域の電力供給を保護し、島のシステムを再稼働させられるよう島のシステムを安定化する必要がある。

 EMP攻撃では、被害の強度、速度、多面性、およびその被害地域の広大さに伴う被害数の多さが複合し、島システムが予期された機能を発揮しない恐れが高い。打撃を受けた地域が広く、被害のない地域からシステムの回復を図るには、数カ月間を要すると見積もられる。

 このようなEMP脅威に対しては、外部電源なしでも再スタートの可能な発電により、被害を受けた電力システムを回復するのが唯一の対策である。このような「ブラックスタート」可能な発電としては、揚水式などの水力発電、地熱発電、独立的なディーゼル式発電機などがある。

 「ブラックスタート」発電という対策を採れば、大規模停電におけるサービスの改善と早期の復旧、EMP環境下での復旧が容易になる。

 なお、対EMP防護のために、すべての電力システムを守ろうとするのは非現実的であり、修理に長期を要する主要な発電設備への広範な被害を低減するのが実際的である。この際に、EMP環境下でも実行できる程度に、島レベルにまでシステムの能力を分散することが重要とされている。

7 電力系統の復旧対策

 電力系統の復旧対策では、変電器網のサイズを上回る負荷に応ずる発電能力の復旧を含めて、復旧対策を考える必要がある。より大きなシステムを、小さな島に再建し、発電機により多くのEMP阻止手段を加え、サブシステムを大きくして中核となる負荷を吸収することが重要である。

 EMPによる損害の復旧は長時間を要するが、(1)枢要な部品の保護、(2)ネットワーク構造の改善による被害軽減、(3)復旧計画の包括的優先順位づけ、(4)政府と電力会社による被害緩和計画の策定などで対応が可能とみられる。

 各電力システムの特性は次の通りである。

 石炭火力発電はEMPに対する抗堪性は大きいが、燃料の備蓄が必要である。天然ガスは石炭に次ぐ価値を持つ。ただし、コントロールシステムの電子機器は脆弱なので、他の燃料でも動かせるようにしておく必要がある。原子力発電は、EMP攻撃時にはフェイルセーフシステムにより自動停止し、使用できなくなる。水力発電は、EMPには強いが、地理的に偏在している。

 燃料の入れ替え可能な多数の分散した発電システムだけでは、EMP対策としては不十分である。EMPから守るには、無電源スタートの可能な発電機が死活的に重要である。また、電力回復用の通信系の確保も重要である。

 手動運転でき遠隔地のオペレーターと交信可能な要員も確保しておかねばならない。次いで、発電機、スイッチなどへの負荷分散用の通信系が重要である。また被害緩和のため島の情報を発進する能力を強化しなければならない。

 その他、以下の具体的な施策も平常時から採っておかねばならない。

(1)システム試験用の基準と装備の開発と配備
(2)政府と産業界に特定のサービス復旧を優先することを明示し、環境・技術面のハザードに対処すること
(3)計画はシミュレートし検証すること。そのためのシミュレーションの手順と基準を開発すること
(4)緊急時対処を任務とするチームの厳格な規律を準用して、問題点と改善策を明確化すること
(5)十分な復旧用人員の確保、および装備の全面換装に備え緊急増産基盤の確保を追求。ただし、緊急増産基盤の確保は、効率性と耐用年数、輸送の可能性、受容性などとトレード関係にあることに留意しなければならない。また、被害診断と通信には重複性を持たせ、システムオペレーターに損害を受けた要素を特定させる能力を持たせる必要がある。

8 遠隔通信システムの被害様相

 遠距離通信への損害は局地でも打撃があり、事業継続にとり死活的影響を与える。電力、ガス、金融、通信が枢要なインフラであるが、中でも特に遠隔通信が重要である。

 このため、米国の場合は、NCS(国家通信システム)が、国家調整センターに対し、あらゆる緊急時の国家安全保障・緊急事態準備(NS/EP)用遠隔通信サービスの開始・調整・復旧・再建の実行、NS/EPの堅固化・余冗・移動・接続・保全、及び政府、企業、各省庁間の計画と協力の管理を命じている。

 また大統領への助言機関には、産業界が得たNS/EPに関する政策実行についての経験と専門知識を助言する任務がある。特に、高高度EMPによる誘導電磁波に対する被害緩和策と、その装置の開発コスト低減のために政府と産業界の共同開発を勧告する任務を有している。

 電話とサービスには使用の優先順位をつけなければならないとされている。そのための設計も開発が義務付けられている。

 なお、政府の緊急計画での優先順位は、(1)政府機関による音声と低速データ送信確保、(2)無線の優先サービス、(3)通信サービス一般、(4)特別な回線、特に政府機能の継続用、(5)非常用、特にNCSの警報・調整用ネットワークとされている。

 通信システムには、ワイヤレス、有線、無線、衛星などがあるが特性は異なり、互いに組合せて使用し冗余性を確保することとされている。

 またEMPにより、有線通信と低軌道衛星通信は大きな被害を受け使用不可能になると見られている。ただし、無線通信機材はアンテナ、電源、コンダクター等につながれていなければ被害はない。

 民間の通信機の電子機器の一部は重大な損害を受ける。特に電力不足に対しては、混合式バッテリー、移動式発電機などで補完する必要がある。また電力、ガス、金融等のシステムも、EMP防護が必要である。

 遠隔通信システムの防護策においては、米国ではNCSと防衛脅威削減局の役割がより重要になったと見られている。また、NS/EPへの新技術導入が重視されており、15年以内に公共ネットワークの主役になるとみられている。

 特に、(1)EMPの遠隔通信に対する効果の差異の確定、(2)高高度EMPから残存するための枢要なネットワーク施設の能力向上、(3)持続的な電力喪失に耐えられるよう遠隔通信システムを改良、(4)広範多様な能力低下下での緊急事態対処訓練、(5)管理者はシステムと運用手順を、EMPに対する脆弱性を考慮して設計することなどの対策が重視されている。

9 日本としてのEMP対策

 日本としても、EMP脅威の重大さを認識し、以下の諸施策を、国を挙げて採る必要があるであろう。

(1)EMP脅威の実態と重大性への認識の普及
(2)EMPの効果、脅威とEMP対策についての官民共同研究
(3)EMPからの枢要なインフラの防護対策の研究と実行
(4)国内での関係民間企業、政府、各省庁、自治体間の協力態勢確立とその中枢となる国家機関の指定または新設
(5)政府と自治体、自衛隊、警察、消防など危機管理関係機関の通信・コンピューターシステム、電力・通信・水道・ガス・交通・物流・金融・医療等のシステムの骨幹通信・コンピューターシステムなどのEMPに対する抗堪化
(6)電子部品のEMP抗堪化対策、EMP阻止用電子回路の官民学共同研究開発
(7)外部電源なしで機能する発電機の開発普及等EMP対策実施の法的な義務づけ
(8)金融、行政サービス、医療その他のデータバックアップと保全、事業継続、そのための計画作成と訓練の義務化
(9)監督官庁による統一的な計画作成指導、訓練の実施、訓練成果の点検と評価、改善勧告
(10)担当官庁への必要な予算と人員の配分、権限の付与
(11)米国はじめ各国との研究交流、情報交換、共同開発
(12)EMP対策に関する国際協力、国際的なEMP脅威抑制のための枠組み構築、監視組織の整備

EMPの脅威に対して採るべき対策は広範多岐にわたり、多大のコストが必要となる。しかし、核兵器国に隣接するわが国にとっても、1発で瞬時に国家機能を麻痺させられるEMPの脅威は深刻である。

 対策をとれば、EMP攻撃の可能性を低減させ、脅威を封じることができるのであり、その意味からも早急な対策が望まれる。
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