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インド新首相登場「経済・軍事」ライバルに成長必至 (対中国)

勝又壽良  2014-06-06 04:03

中国の落日とインド勃興  日本企業は新天地求める

中国は、南シナ海を「内海」として囲い込みたい。そんな意図を明確にして、乱暴な動きを好き勝手に行っている。ベトナムの排他的経済水域内で、石油採掘準備を始める。フィリピンの島嶼を占領して、「飛行場」を建設する。習近平主席の「中華民族の再興」がいち早く実現し始めた。恣意的な行動をやればやるほど、それを阻止しようとする物理的な「反動力」も働くものだ。これが歴史の法則である。中国と並ぶ「人口大国」インドが、これから中国の前に「待った」をかけようと立ちはだかる。

インドで10年ぶりの政権交代が実現した。5月26日に就任したナレンドラ・モディ首相の外交政策が始動している。領土紛争を抱える隣国パキスタンとの関係改善を軸に、南アジア各国との協力を強化する狙いがはっきりした。米国とも安全保障や経済など多面的な関係強化を目指す。南アジア地域で、存在感を強める中国をけん制する意図が明確なのだ。「モディ氏自身、選挙中に『中国は領土拡張主義的な政策をやめるべきだ』と発言。所属するインド人民党(BJP)のマニフェストでも、シン政権時代を『威厳喪失の10年』と批判。経済や外交、安全保障面で急速にインドが弱体化した時代だ」(『日本経済新聞』5月28日付け)とした。

中国の落日とインド勃興
米経済誌『フォーブス』(5月18日号)は、次のように論じた。

① 「1947年の独立以来、世界最大級の人口を抱えるインドの民主主義体制を牛耳ってきた国民会議派は、歴史的惨敗を喫した。より広い視点で見ると、最大の敗者となったのは(国民会議派副総裁の)ガンジー氏(注:国民会議派が政権を継続できれば、次期首相候補)ではなく、北京の中国政府である。この先数年、海外からの直接投資は中国ではなく、インドに向かうことは間違いないからだ。海外からの資金を必要とする中国経済は、最悪の時期に直接投資の流れの変化を迎えることになる」。

5週間にわたって繰り広げられたインド下院の総選挙で、野党のインド人民党(BJP)が圧倒的勝利を収めた。すでにBJPは、543議席のうち予想を大幅に上回る282議席を獲得した。連立を組むほかの政党の議席を合わせると、BJPは337議席を支配する。人民党が「地滑り的」大勝を収めた理由は、インド経済の停滞である。4~5年前の予測では、2013年頃を境にしてインド経済は経済成長率で中国を抜くと見られていた。結果は、インドの「一人負け」である。国内経済の開放が遅れたのだ。インド国民は、インド経済回復の立役者としてモディ氏に夢を託したのである。

モディ氏は、「親日派」として知られている。グジャラート州の州首相時代、日本企業を積極的に誘致した実績がある。こうした関係から、首相就任後の最初の外国訪問先として、日本訪問を安倍首相が招請したとの情報が伝えられている。

「日本の安倍晋三首相は、モディ首相に期待をかけている。彼はモディ首相の初の歴訪国として日本を訪問してほしいと要請した。モディ首相は安倍第1次内閣時であるグジャラート州知事時代に日本企業を誘致するため日本を訪問した。安倍首相はインドとの協力を通じて中国を牽制しようとしている。技術・資本力を持つ日本と労働力・市場があるインドは、魅力的な組み合わせになりうるという点を前面に出している」(韓国紙『中央日報』5月28日付け)。

前記の『中央日報』記事では、日印関係が経済と安全保障の面で協調関係を強めると見ている。ここには、韓国が日本企業の投資対象国から外される危険性を感じ取っている節が読み取れる。中国陣営に馳せ参じた韓国が今さら、日本に対してとやかく言うこともあるまい。だが、日本の動きが気になるのだ。韓国はあれだけ「日本批判」をしてきた。その日本が、インドと強い絆で結ばれる。内心穏やかでいられないのだろう。

② 「モディ新首相は、インド経済の構造改革を公約に掲げ、西部グジャラート州の州首相時代にリベラルな政策によって達成した好況の成果を、インド全域に広げることを約束してきた。『モディ氏は、グジャラート州にインドで最初の、真の自由主義経済を導入し、新たなインフラ整備と雇用の創出を達成した』デリー大学の元政治学教授、スブラタ・ムカジー氏はそう語っている」。

インドは独立以来、社会主義経済を標榜してきた。英国植民地時代に、過酷な搾取に悩まされてきた結果、純然たる「市場経済」を忌避するムードがきわめて強かったのだ。それは、歴史の教訓として分からぬではないが、現実の経済運営では社会主義的な経済政策は行き詰まっている。同じ「人口大国」の中国は、「社会主義市場経済」の下で高速成長を遂げた。この国力増大を背景にして軍拡に励み、印中国境線では絶えず小競り合いが続いている。中国は、インド周辺国に影響力を及ぼし、インドの孤立をはかる動きを見せているのだ。ここは、インドとして踏ん張らなければ、安全保障上の危険すら生じかねない。こうした危機感が、インド国民を下院総選挙で突き動かしたに違いない。

③ 「インドの将来に期待しない人間などいるだろうか。モディ氏が予想を大幅に上回る勝利を収めたことは、少なくとも今後、インド議会下院で彼が多数派を牛耳り、前任者のシン首相にとっては夢にすぎなかった大業を達成できることを意味している。モディ新首相はインド経済を立て直す権限を手に入れた。確実に、立て直しに成功するはずだ。モディ氏には、『スーパー・モディ』『インドのマーガレット・サッチャー』などの呼び名がついている。インド国民のあいだでは、『モディ・ウエーブ』の話題でもちきりだ。モディ氏自身もこの国民の熱狂をあおっている。BJPがこれまで掲げてきたスローガン『輝けるインド』を口にするだけでなく、21世紀は『インドの世紀』になるとも公言している」。

モディ首相は、21世紀が「インドの世紀」だと言い始めたという。モディ氏はインド独特のカースト制度のなかで「最下層」の出身である。それにも関わらず、インド首相として13億の国民を引っ張る「大役」を担う。インド社会に、既得権益を打破しようという大きなうねりが起こっている証拠である。その点では、確かに「モディ・ウエーブ」と言っても良い。社会変革への起爆剤になる期待が出ているのだ。

中国が既得権益に縛られているのとは好対照である。共産党員にあらざれば人にあらず、なのだ。インドのカースト制下で、「最下層」出身者がトップに座る離れ業を成し遂げた。中国では、非共産党員が首相になるなどあり得ない。中国の政治改革を進めるうえにも、インド経済の回復と社会改革の推進をぜひ実現して欲しいものだ。共産党政権でなくても、民主主義政治のインドが立派な経済成長を実現できる。それを証明できれば、中国の政治改革への「生きた手本」になりうる。

④ 「21世紀は中国の世紀になるはずだった。最近は、この掛け声をあまり聞かれなくなった。中国躍進の原動力の経済は、いまや息切れ気味である。歴史的な破綻をきたす寸前に来ている。しかも、中国政府は多国籍企業に対して差別的な調査を強化している。一例を挙げれば、5月半ば、中国政府は、英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の中国担当部門トップを贈賄容疑で起訴した。その一方で、同罪の国内会社を目こぼしし、支障なく営業させている。外国企業を悪者にする中国政府の手法は、政治的には有効な政策といえるかもしれない。経済的には、長期的にきわめて拙劣だ。残念ながら現在の中国は、1970年代末に改革路線を打ち出した指導者、鄧小平の知恵を学んでいない」。

中国経済がバブル崩壊過程に入っており、かつての勢いは消え失せた。こうした苦境下で顕著なのが外国企業のねらい撃ちである。国内企業保護のために、あえて外資企業を痛めつけるという手法を採用している。この拙劣な手法は、中国から外資を遠ざけることになるのだ。現在の中国政府は、必死になって外資の呼び込みを行っている。その一方で、こうした外資いじめをして国内企業を保護する。何とも片手落ちな振る舞いである。鄧小平は、改革開放政策を1978年末に行って、現在の中国経済躍進の基礎をつくった。今なお、外資の技術に頼らざるを得ない中国経済の脆弱性は、共産党政権の既得権益主義が生んだものである。自由な経済取引を妨害している結果だ。

⑤ 「外国企業は外資にとって、中国の今後の動向が悪化する一方と見る。インドは格段に好転すると見ているのだ。いまや『モディノミクス』とも呼ばれるモディ氏の経済政策は、大企業こそが雇用と富を創出し、よりよい社会を築けることを最大の信条にしている。中国にとってモディ氏の登場は、長期的に見て最悪の事態となる公算が大きい。中国経済が低迷するいま、モディ氏は自らが直接手を下すことなく、中国を窮地に追い込もうとしている。間もなく資金が音を立てて流れ始めるだろう。その流れは中国でなく、インドへ向かうのだ」。

モディ氏の経済政策は、「モディノミクス」と呼ばれているという。大企業こそ雇用の場をつくり、所得を生み出すというオーソドックスな見解である。従来の社会主義的な経済政策からの大転換である。インドの特色は、理数系に強いことである。周知の通り、数字の「ゼロ」を発見したのはインドである。この点で、中国とは天と地もの差があるのだ。中国では儒教が墨子の論理学を排斥した。その結果、帰納法や演繹法が生まれず、近代科学の発展で欧米日に大差を付けられて現在に至った。インドは、数学が最も得意な民族である。ITなどのソフト面で実力発揮が期待されている。ここまで書いてくると、今後のインドと中国との勝負は、もはや決まったのも同然であろう。そういう感じを否めない。

モディ氏は選挙公約で、インドの小売市場開放を外国企業へ認めない現行規制を維持する、としてきた。この公約は、モディ氏の政治的方便にすぎない。それが大方の見方である。これを裏付けるように、世界最大の総合小売業ウォルマートは、インドへの投資を増やし続けている。モディ氏の勝利を予想して、ウォルマートはインドに新たに50店舗も開店し、ネット販売も開始する計画を4月に発表した。モディ氏の経済哲学から見て、小売市場の開放は間違いない。ウォルマートはそう読んでいるのだ。このウォルマートの読みが当たるとすれば、外国企業のインド投資が増加に転じるはず。さて、今後はどうなるのか。中国はすでに、対外投資の有望外国リストから落ちこぼれた。

日本企業は新天地求める
『人民網』(5月28日付け)は、次のように伝えた。

⑥ 「2013年以降、日本の製造業の対中投資はピークを過ぎた。日本企業の20数年にわたり中国で生産し、海外に再輸出して販売するという対中投資モデルが重大な転換期を迎えている。ここ数年、中国は労働力コストが上昇し、日本企業の予想の範囲を超えた。中国はもはや安価な労働力が豊富にある国ではない。日本の政府機関である国際協力銀行(JBIC)の調査結果によると、中国を第一の投資先と定めない日本企業(注:現在4位へ後退)が出てきた主な原因として、中国の労働力コストの上昇と労働力を確保することの難しさ(41.2%)、他社との競争の激化(20.6%)、中国経済の減速(26.0%)、中日の政治関係の動き(12,2%)などが挙げられる。もう一つ重要な原因がある。JBICが調査した日本企業のうち、77.9%が中国に工場を1カ所以上建設しており、華東地域と華南地域に1カ所ずつ建設しているという企業も少なくない。実際、日本の企業で中国に投資できる力のあるところはほとんどがすでに投資を行っており、対中投資が新たに増える余地は徐々に小さくなっている」。

日本企業(製造業)の対中投資が、2013年以降ピークを越えた事実を淡々と紹介している。主因は、(1)中国の労働力コストの上昇と労働力を確保することの難しさ。(2)中国での工場増設余地がなくなったこと、「チャイナ・プラス・ワン」が現実的な課題になっているのだ。中国で工場をさらに増設するよりも、他国への立地を求める方が賢明である。そういう判断が高まってきたのだ。世界経済は今後とも成長発展して行く。この流れからいえば、中国における製造業の新規立地条件の魅力がなくなったのである。これは、中国経済にとって死活的な問題になるはずである。

これまで中国は、中国に代わる生産拠点は存在しない。そう言ってきたが、現実にはASEAN(東南アジア諸国連合)が、中国に代替する立地条件を備え始めているのだ。中国はこれまで、「チャイナ・プラス・ワン」はあり得ないと思いこんできた。現実には、この「思い上がり」が見事に覆されたのである。外資企業にとって、中国が製造業拠点としてもつ価値が下がってきた現在、次なる製造業拠点はどこになるのか。

ジェトロ調査では、インドネシアやタイなどのASEANが候補地に上がっている。ここに、「ダークホース」として、あるいは「本命」として登場するのがインドである。これまでインドが敬遠されてきた理由は、インフラ施設の不備。インド政府自体が、外資の進出にいくつかの壁をつくってきたこと、などが指摘されている。だが、既述の通りモディ首相は、積極的な外資導入の旗を振っている。情勢は大きく変わるのだ。今回のインド人民党の勝利は、「市場開放」をインド国民が受け入れたことの証である。

もう一つ重要なことは、インド人民党がシン前政権を「威厳喪失の10年」と批判したことである。経済や外交、安全保障面で急速にインドが弱体化した時代だ、というのである。これは、隣国中国への対抗を明らかにしたもの。中国にとっては、厄介な問題を抱え込んできた。ベトナムやフィリピンを「小国」扱いしてきたが、インドとなればそうはいかないのだ。インドが、ベトナムやフィリピン側に立ってくると、これまでのような好き勝手はできなくなる。中国にとっては、強力ライバル登場である。少しは頭を冷やす良い機会になろう。
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