Entries

中国の首脳陣が憂慮する6つの難題

米国防省が中国の「弱み」を指摘 2014.06.11(水) 古森 義久

中国の最高指導者たちは自国の軍事力の拡大に懸命のようだが、その一方、国威の発揚にとって陰りや障害となり得る要因にも深刻な懸念を向けている。それらの気がかりとなる要因とは何なのか。米国の国防総省が6月5日にリポートを発表し、興味深い指摘を行っている。その内容を紹介しよう。

 米国防総省が発表した「中国の軍事力と安全保障の展開に関する報告、2014年版」は、2001年からその作成と議会への送付が法律で義務づけられた年次報告書である。当初は「中国の軍事力報告」と名づけられていたが、オバマ政権になって現在のタイトルへと変えられた。オバマ政権のソフトな対中姿勢を反映したタイトル修正だった。

 今回の報告も、中国が継続して推進する陸海空軍、そしてサイバー空間や宇宙での大規模な軍事能力増強について、具体的な兵器や作戦にまで触れて詳述していた。同報告は、中国の当面の戦略目標を「激烈な地域的有事に際して戦闘を実行し、短期に勝利するための軍事能力を高める」ことだと規定する。

 その具体例として、まず「台湾海峡での衝突に備え、米軍を抑止し、撃破することも含めて」十分な戦闘能力を保持することを挙げる。さらに「人民解放軍は台湾有事以外にも南シナ海や東シナ海での有事への準備に重点をおくようになった」と述べる。同報告が東シナ海と南シナ海の有事をこれほど重点的に記したのは初めてである点に、日本側は留意すべきだろう。

中国に立ちふさがる6つの難題

 さて、同報告でさらに注目したいのは、米国側が見た中国首脳陣の長期的な戦略である。

 同報告は次のように記す。習近平政権の中国共産党首脳陣は、現状を、自国が経済発展、領土保全、国内安定などを強化する戦略的な機会と捉え、そのための主要手段として軍事力を強化している。しかし、現在は好ましく見える安全保障環境も、いくつかの要因によって自国の戦略的な発展が阻害される恐れがあることを懸念している、というのだ。

 同報告が挙げるそれらの要因とは以下の6点である。

【経済成長の鈍化】

 中国の首脳陣は、自国経済の堅固な発展の継続こそが社会の安定、そして対外戦略の基盤だと見ており、経済の破綻や停滞は、対外的なパワーの拡大にも重大な支障となると懸念している。経済成長を阻害する可能性がある要因としては、第1に投資と輸出への過度の依存状態から抜け出せないことが挙げられる。第2には世界の貿易パターンの変化、第3に国内資源の制約、第4に賃金の値上がりと労働力不足、第5にはエネルギーなど海外の資源が入手しづらくなることなどである。

【ナショナリズムの危険性】

 中国共産党や人民解放軍の指導層は、共産党の統治の正当性を支え、国内の党への批判を抑えるために、ナショナリズムを一貫して利用してきた。諸外国との対話を拒むうえでも、ナショナリズムをその理由にして、利用してきた。ところがナショナリズムは首脳陣にとって諸刃の剣となりうる。対外戦略上、柔軟な政策を取りたくても、国内のナショナリズムの高まりで、逆にその制約を受けてしまう危険があるのだ。

【東シナ海、南シナ海をめぐる緊張】

 東シナ海をめぐる日本との緊張関係、南シナ海をめぐる複数の東南アジア国家との緊張関係は、中国の周辺の地域や海域での安定を崩すことになる。中国と対立する各国は、米国のアジアでの軍事プレゼンスの増大を求める。さらには、それら各国が独自に軍事力を強める可能性や、米国との軍事協力を強める可能性もある。こうした可能性が現実になれば、いずれも中国に対抗する軍事能力の増強につながり、中国の軍事力を相対的に弱めることとなる。

【蔓延する汚職】

 中国共産党は、党内の腐敗をなくし、国民の要求に対して責任ある対応を取ることを国民から求められている。同時に党内の透明性や責任の履行も求められる。共産党がこれらの要求に応じない場合、一党支配の正当性が脅かされることになる。いま中国全土で、一般国民の共産党に対する不信や不満を抑えるために、国家レベルの汚職追放の運動が展開されている。だが、党がどこまでその運動を許容するかはまだ未知数である。その結果次第で共産党への不信がさらに広まる可能性がある。

【環境問題への対応】

 中国経済の高度成長によって、国民は環境面で多大な犠牲を強いられている。首脳陣は国内の環境汚染の悪化にますます懸念を抱いている。環境悪化は経済発展や公衆衛生、社会の安定、中国の対外イメージなどを損ない、最終的には政権の正当性をも脅かすことになる。中国の国家経済全体の成長を抑えつけることにもつながり、大きな政治的危険をはらんでいる。環境問題が政治に及ぼす影響に、首脳陣は最近特に悩まされているようだ。

【高齢化と少子化】

 中国は、いま高齢化と少子化という人口動態上の二重の脅威に直面している。少子化の結果、出生率は1.0 以下へと低下した。国民の平均寿命が延びると、中国政府は社会政策、健康政策への資源配分を増やさなければならなくなる。同時に出生率の低下によって、若く安価な労働力が減少する。これまでの30年は、安価な労働力が中国経済を高度成長させるカギとなってきた。人口の高齢化と少子化は、経済を停滞させ、中国共産党の正当性を脅かす。

 今回の米国防総省の報告は、中国の軍事能力そのものを調査し、公表することが主な目的だが、中国共産党の指導層は自国の戦略的発展を阻害する要因として上記のような諸点を心配していると解説している。これらは、いわば現代の中国の弱みだとも言えよう。日本側としても中国をウォッチする上で心に留めておくべき指摘である。
スポンサーサイト
  • コメント : -
  • トラックバック : -

Appendix

最近の記事