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中国、海外投資先「首位」から陥落「EU企業」の半分も見限る

勝又壽良 2014-06-13 03:52

地力で米国に敵わない中国 中国の金融緩和は「麻薬」

「奢れる者久しからず」とはよく言ったものだ。中国は、世界経済の頂点を目指して飽くなき成長路線を追及してきた。それも、ついに未完で終わったようである。「月満れば即ち欠く」である。中国は最近の調査で、海外からの投資先ランキングで首位の座を米国に譲り、2位に甘んじたのである。米国経済を甘く見てきたのは、外ならない中国である。中国13億人の民が働けば、3億人の米国経済を追い抜ける。そう思いこんできた。米国へは前倒し姿勢で、米中「対等論」を持ちかけ、意気揚々と構えてきた。この目算は見事に外れる環境になってきた。

不思議な話だが、日本には中国の経済改革を支援すべし、との説がある。日本企業による積極的な中国進出が、それに貢献するというのだ。その度に、私はそれを否定してきた。中国は、海外企業の投資先としての「魅力」(投資採算性)が低下していること。中国の国力増進が、日本の安全保障を危うくする危険性があること、などを理由にしてきた。中国が民主主義国であれば、他国を侵略する危険性は減る。だが、専制政治体制であって「中華帝国」の系譜を継ぐ武断国家である。危険きわまりない存在になった。

中国は、秦の始皇帝以来の「合従連衡」と「孫子の兵法」を100%実践している。いわば、「シーラカンス」的な国家である。社会主義という現代的な装いをまとってはいる。実態は、2200年前の価値基準をいまだに墨守しているのだ。これほどの危険な国家が、経済力を付けることの意味を冷静に考えるべきである。米国は、経済力を回復しても日本を「侵略」することもない。その米国が、海外投資先ランキング1位になったことは、民主主義諸国にとっては、中国の横車を防ぐ点で歓迎すべきことだ。

地力で米国に敵わない中国
『人民網』(6月3日付け)は、次のように伝えている。

① 「米国・シカゴの経営コンサルティング会社A・Tカーニーがこのほど行った調査によると、海外の投資目的地として、米国が吸引力を増しており、投資先ランキングで首位に立った。中国は2位で、ロシアや一連の新興市場の魅力が減少しつつあるという。米国、中国の以下は、カナダ、英国、ブラジルが続いた。ロシアは前年同期の調査では11位だったが、今回は25位に転落。インドも5位から7位に、メキシコも9位から12位に順位を下げた。米国の獲得ポイントは2.16ポイント、中国は1.95ポイント、カナダは1.93ポイントだった。米国は相対的に力強い人口の増加と石油・天然ガス生産量の増加によってポイントを稼いだという。ここ数年、海外企業は米国の石油化学製品工場、肥料工場、自動車・タイヤ工場、その他の工場に多額の投資を行っている」。

中国が海外投資先ランキングで1位でなくなった理由は、人件費高騰と労働力不足である。これまで中国の最大セールスポイントの前記2点が、すべて失われたことが大きく影響したであろう。中国の人的要因が、プラスからマイナスへの転換は、経済的な魅力が急速に消失したことを意味する。このマイナスを補う研究開発能力があるならばまだしも、模倣技術を当たり前とする環境下である。中国が、海外投資先ランキングで米国にその座を奪われたのは当然なのだ。

米国は、2008年のリーマンショック後に労働事情も変わった。労組の厳しい賃上げ攻勢は姿を消している。賃上げは緩やかになった。依然として、米中の賃金格差は存在するが、生産性向上によってその差を埋められるところまで来ている。しかも、需要地の米国で生産すれば、輸送費は省ける。輸送中の余分な在庫を持たなくてすむ。オイルシェール開発によってエネルギーコストは低下している。良いことずくめである。

米国があらゆる点で、製造業復活の条件を揃えているのだ。こうなると、中国は逆立ちをしても米国には敵わない。中国人民解放軍は、この事情をよく飲み込めないでいる。だから、周辺国に対して、向こう見ずな軍事的な威圧をしているのだろう。米海軍は見て見ぬふりをする。そう思いこんでいるとしたら、愚かと言わずに、何と言うべきだろうか。6月初旬のG7での会議では、中国に対して警告を発している。中国は、世界の「警戒国」に成り下がっている。

『サーチナー』(6月3日付け)は、次のように伝えている。

② 「(中国所在の)EU商工会議所が、中国進出のEU企業552社を対象に行った調査で、企業の51%が『中国での商売はだんだんと難しくなってきた』と答えた。比較的規模の大きな企業ではこうした認識はさらに強く、その割合は68%に上った。『困難』は業績に表れており、『過去1年の業績がそれ以前に比べて伸びた』と答えたEU企業は59%のみ。一方で、『2011年の業績を大幅に下回る』と答えた企業は78%だった。利益が落ち込み、粗利率が下がったことで、多くのEU企業は中国市場の先行きを悲観的に見るようになり、投資計画も減った。企業の46%は『中国の黄金期はすでに終わった』と考えているという。経済成長の鈍化と人件費の上昇、競争激化により、EUの企業にとって中国市場の魅力が消えたと見ている」。

この調査対象企業は、中国の内需を当て込んで進出したものである。ところが、中国の経済成長率の鈍化と人件費の上昇、競争激化によって採算が悪化している。これまでの中国経済は、年率10%成長が普通であった。現在は、7%成長を切るか切らないかというところまで追い込まれている。その上、「反腐敗闘争」で官僚の賄賂追及が厳しくなっている。高級品は軒並み売上げダウンである。一方では、人件費の上昇と国内の競争が激化している。中国政府の差し金で海外有名ブランドは、難癖を付けられてマスコミの集中砲火を浴びる環境になっている。同業の国内ブランド保護が理由、と噂されている。アン・フェアーな中で、ビジネスを続けることが困難なのだ。

中国進出のEU企業の51%は、「中国での商売はだんだんと難しくなってきた」と見ている。46%は、「中国の黄金期はすでに終わった」と考えているほどだ。こうしたEU企業の率直な感想を見ると、中国の需要の伸びは「普通の国」になっていることを証明している。EU企業は、先行きを慎重に見るようになった結果、設備投資も手控えている。EU企業がこういう状態であるから、中国企業も同様に経営的に苦しい事態である。ここに、現在の停滞した内需を盛り上げるべく、いつでも見られる「金融緩和策」を求める意見が出始めた。

『ブルームバーグ』(6月3日付け)は、次のように伝えた。

③ 「中国の経済成長は信用拡大と連動しており、景気拡大の勢いを取り戻したいなら政府は社会全体のファイナンスを増やす必要がある。中国国際金融(CICC)はこう指摘する。4月の企業・社会の借り入れ伸び率が、ここ8年余りで最低となった。1~3月期の国内総生産(GDP)成長率は7.4%と、6四半期ぶりの低成長にとどまった。CICCの債券アナリストは、『経済成長が勢いを失っている主因は社会融資の鈍化だ。政府は商業銀行の融資規制を緩和したり、インフラ事業の資金調達を支援するための債券発行を増やす政策を検討する必要がある』と述べた」。

中国では、景気が少しでも停滞局面になると必ず、「金融緩和」の声を聞く。実は、これが繰り返えされ、実施されてきた。企業は、予めこの「金融緩和」を織り込み、過剰投資をしてきたのだ。ちょうど、日本の高度成長期がそうであった。一時的に設備が過剰でも、次なる金融緩和=景気回復では、その過剰設備が生きてくる。この繰り返しの挙げ句に迎えたのが、「平成バブル」である。どうにもならないデッドロックに乗り上げ、日本経済は破綻したのである。

中国もその二の舞を演じようとしている。主要7業種が、すべて過剰設備を抱える。平均操業率は7割見当と見られている。この状態で、さらなる金融緩和が何をもたらすか。言うまでもない。金融緩和=麻薬である。非効率企業を整理淘汰させるには、不況はまたとない機会である。国有企業の場合、既得権益と固く結びついている。それだけに過剰設備処理が、きわめて困難である。「応援団」がねじ込んで来るのだ。こうして過剰設備処理は不可能に近い。金融緩和は、中国経済の体質改善を遅らせる「麻薬」でしかない。

中国の金融緩和は「麻薬」
『人民網』(6月3日付け)は、次のように報じた。

④ 「経済成長率の低下を受け、市場では金融緩和による刺激策の呼び声が高まっている。専門家は、中国の指導部は穏健な金融政策を維持しており、金融緩和による『金で成長率を買う』という古い手段を繰り返すことはないと指摘した。経済成長率の低下、不動産価格の下落、実体経済の資金調達難、地方の債務リスク、余剰生産能力、貿易の疲弊――中国経済は現在、多くの問題を解決する必要がある。民生証券の報告書は、『中国経済は成長ペースが変わる時期、構造調整の痛みが伴う時期、これまでの政策を消化する時期が重なっており、経済が高度成長から中高度成長に切り替わるのは必然的だ。供給面から見ると、人口(動態構造)のボーナス(現象)が減少し、貯蓄率が転換点を迎え(て低下)、潜在的な経済成長率が低下し、労働力の比較優位が失われている。需要面から見ると、国内では人口構造の転換点が不動産(需要)の原動力の低下を招き、海外では世界経済がバランスを取り戻しつつあり、外需と外資の原動力が低下している』と指摘した」。

いつも、過激な日本批判記事で埋め尽くしている『人民網』が、数少ない論理的記事を掲載した。私が日頃、主張していることと寸分違わない内容である。一読して、中国は目を覚まして「新事態」に即応した経済政策を採るのか、という期待が高まるのだ。文中の括弧は、私がつけて補足した。それほど、この記事は真っ当な内容である。私の「中国論」は、まさにここに書かれていることと同一内容である。私が批判して止まなかったのは、北京大学の林毅夫教授である。彼の「夢物語」は、ここで完全に否定されている。その林氏が、世界銀行のチーフエコノミスト兼副総裁であった。この人事の背後には、不明朗な中国独特の動きを想像させるのだ。

中国の人口動態から見て、もはやかつての高い経済成長率は再現しない。逆に、潜在成長率は低下して行く。「人口構造の転換点が不動産(需要)の原動力の低下を招く」のは、不可避である。この前提に立つと、これまでの膨大な住宅在庫を実需につなげ消化するには、相当な値下げと長期の時間を必要とする。中国経済は、その間の負担に耐えられるのか。不動産で経済を活性化してきた国家である。不動産バブル崩壊は、中国経済のエースを欠くことでもある。その重圧は想像を超えるものがある。

⑤ 「預金準備率の引き下げについて、専門家と関連機関は慎重な態度を示している。民生証券の研究報告書は、『伝統的なケインズ主義のマクロ調整モデルで成長率低下に対応するならば、中央銀行は確かにこの時期に預金準備率を引き下げ、総量の緩和により全体的な需要をけん引する必要がある。しかし何度も指摘してきた通り、“新たな常態”の枠組み内で、政府のマクロ管理方針には重大な変化が生じている。今後は古い道を歩み、総量を刺激する政策が講じられる可能性は低い』と予想した」。

「金融緩和による『金で成長率を買う』という古い手段を繰り返すことはない」と言っている。ケインズ主義による有効需要政策の限界を、見事に知り抜いているのだ。私は、日本が「失われた20年」で時間を空費した事実を、今も惜しいことをしたと悔やんでいる。金融緩和でなく、構造改革=イノヴェーションに着手すべきであった。ケインズ経済学よりもシュンペーター経済学なのだ。私の学位論文の「メインバンク制の歴史的生成過程と戦後日本の企業成長」は、この視点から分析構成したもの。従来主張されてきた、日本の学会におけるメインバンク有効性の定説は、実証データーと理論を用いてひっくり返したと思う。いささかの自負があるのだ。

⑥ 「盲目的に経済成長率を求めるよりも、成長の内在的な原動力を発掘し、革新の活力を引き出し、成長の質を高めることが極めて重要になっている。マサチューセッツ工科大学スローン校教授の黄亜生氏は、『中国経済の過去30数年間の急速な発展は、大規模な資本と人材の投入に依存しており、革新や生産力の強化の貢献は30%のみだった。中国経済が長期的に発展しようとするならば、経済発展における革新の作用を拡大しなければならない」と指摘した。黄氏は、「中国の科学技術の革新力の強化が重要になっている。政府主導の革新モデルを変え、民間の技術革新と創業を奨励するべきだ」と語った」。

中国経済の過去30数年間の急速な発展は、大規模な資本と人材の投入に依存してきた。革新や生産力の強化の貢献は30%のみだった、と言っている。私は、「中国経済の発展が外国企業の資本と技術に依存してきた」と主張している。それを、ここでは間接的に認めているのだ。「イノヴェーション能力」に欠けており、「模倣」だけにすがってきた中国企業が、新たな地平を切り開けるのか。私には大いなる疑問である。秦の始皇帝の思考方式を「祖法」としている中国が、欧米日の革新的な思考に馴染むはずがないのだ。それを実現する道は唯一、政治の選択権を国民が取り戻すときだけである。6月4日の「天安門事件25周年」を見ても分かるとおり、中国は「イノヴェーション能力」と無縁な政治体制である。
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