Entries

中国の圧倒的存在感と苦悩する韓国

2014.07.07(月) 宮家 邦彦

中国株式会社の研究(250)~中韓首脳会談

この原稿は現地時間で独立記念日の朝、ワシントンのダレス国際空港で書いている。7月3日には確かソウルで中韓首脳会談が開かれたはず。現に日本の7月4日付新聞では、中韓首脳合意「対日圧力で共闘」などと書かれていたが、空港で見た米国主要紙にこうした報道は見られない。いったいなぜなのだろう。

 というわけで、今回は米国の首都から中韓関係を考えてみる。(文中一部敬称略)

欧米と日本で異なる報道ぶり

中韓首脳会談、朴大統領「北朝鮮の非核化で合意」

 まずは、いつもの通り、事実関係から始めたい。欧米系メディアが報じる中韓首脳会談の見出し記事をいくつかご紹介する。

●中韓、北朝鮮の核計画に反対。両首脳、年末までの自由貿易協定締結にも合意(South Korea, China Oppose North Korea Nuclear Program、President Xi and President Park Also Agree to Strike Free-Trade Deal by Year-End 7月3日付AP)

●中韓、2国間貿易協定へ(China and South Korea poised for bilateral trade deal 7月3日付AFP)

●中韓貿易協定、大きな隔たりの克服が必要(China, South Korea trade pact must overcome wide gaps-official 7月4日付ロイター)

 まだまだあるが、このくらいにしておこう。現時点で探した限り、欧米系通信社が報じた記事の大半は中韓首脳会議の経済的側面を報じたものであり、その政治的意義について詳細に報じた主要日刊紙は見当たらなかった。

 イラク情勢が悪化しつつあるとはいえ、これが欧米メディアの関心レベルということなのだろうか。これに比べれば、当然ながら、日本メディアの報道ぶりは実に詳細かつ多様である。

●中韓首脳会談 地域の安定損なう「反日共闘」(7月4日付読売)
●【中韓首脳会談】蜜月演出に透ける思惑 外交孤立回避したい中国(7月3日付産経)
●影を潜める「日本批判」・・・中韓首脳会談に「不満」示す韓国メディア(7月6日付SearChina)
●北の核問題に断固反対 慰安婦問題の共同研究でも合意(7月3日付産経)
●韓国にパンダを貸与へ 習政権、「パンダ外交」活発(7月3日付産経)

 読者の皆さんはこれらを既にお読みのことだろうから、ここで詳細は繰り返さない。これからご紹介したいのは、筆者がワシントンで考えた中韓首脳会談に関する見立てである。

 欧米報道のような単なる「経済会談」でなかったことは確かだが、だからと言って、中韓間で「反日共闘」が確立したとも思えないのだ。

ワシントンは公開情報の宝庫

米下院、債務上限引き上げ法案を可決 上院で審議へ

米連邦議会議事堂〔AFPBB News〕

 来るたびに思うことだが、やはりワシントンは国際情報の宝庫だと痛感する。しかも、その多くは公開情報であり、比較的容易に入手できるのだ。

 とにかく、世界中から最新情報を持った様々な専門家が行き交う。この街ではいくつか公開シンポジウムを覗くだけでも、かなりの情報が無料で手に入る。

 今回そのことを思い知らされたのはイラク情勢についてだった。シーア派、スンニ派、クルド系など今米国の支援を望む連中はたくさんいる。

 いずれも知恵の限りを尽くし、米国政府の理解を得るべく、必要であればかなり機微な情報を伝え、米側の関心を引こうとする。この一部が筆者にも漏れ聞こえてくるのだ。

 中東がそうなら、アジアも基本的に同様だろう。中国人、韓国人、日本人などがホワイトハウスや主要シンクタンクを入れ替わり立ち替わり訪問し、おびただしい量の重要情報をインプットする。

 だから、米国専門家は生の情報量について悩むことはない。彼らの問題は情報収集能力ではなく、情報分析能力である。 

米国から見た中韓関係の実態

 最後に、今回の中韓首脳会談に関する筆者の見立てを記しておく。もちろん現時点で入手できた公開情報を基に分析した「独断と偏見」であり、あくまでも仮説に過ぎない。そうした前提で、以下の筆者の戯言にいましばらくおつき合い願いたい。

●中朝首脳レベルの関係は確実に悪化している

 習近平が金正恩を快く思っていないことは、今回中国の国家主席がピョンヤンよりもソウルを先に訪問したことからも明らかだろう。

 「たかが順番ではないか」と反論されるかもしれないが、中国にとってこの種のプロトコールは我々の想像を超えた重要な政治的意味を持つ場合が少なくないのだ。

●中朝関係悪化は今や顕在化しつつある

 習近平がどの程度北朝鮮に対し違和感を持っているかは想像の域を出ないが、少なくとも、前政権の胡錦濤・総書記や戴乗国・国務委員の時代、中朝間にこんな雰囲気はなかったと多くの米側識者が語っていた。されば、中国側もこのことを米側関係者に隠そうとはしていないということ。

 実際に、中国の対北朝鮮制裁は強化されており、中国メディアでも北朝鮮体制を蔑む記事が目立っているそうだ。これとほぼ同時期、北朝鮮が日本側に拉致問題などで秋波を送っていることも、これら一連の動きと決して無関係ではなかろう。

●中国は北朝鮮を見捨てていない

 それでは中国は緩衝国としての北朝鮮の価値を見限り、韓国との戦略的関係強化に舵を切ったのかと問われれば、それもないだろう。

 中国が現時点で北朝鮮の「生命維持装置」を外す兆候は見られない。韓国側もそのことは十分承知だろうと思う。

●韓国側も中国との戦略的関係強化には慎重

 朴大統領を取り巻く国内政治情勢は、多くの高校生が亡くなったセウォル号事件後、統一地方選での善戦にもかかわらず、依然として厳しい。しかし、米国専門家などから聞こえてくる韓国の対日態度は、日本人が考えるほど険悪なものではない。

 もちろん韓国側が米側関係者に対し、日韓関係について実態以上の楽観論を流している可能性は否定できない。しかし、様々な方面からの話を聞く限り、現時点で韓国側が「前のめり」で中国に傾倒しているようにはどうしても思えない。

「前のめり」はむしろ中国?

 以上の分析が正しいとすれば、「前のめり」気味なのは韓国側ではなく、むしろ中国なのかもしれない。

 確かに、「従軍慰安婦」など歴史問題で韓国に「共闘」を働きかけてきたのは中国側だ。そして、その中国の圧倒的存在感の前に、韓国が大いに苦悩したことは想像に難くない。

 他方、今回両国が公の場での「日本批判」を控え、一部関連資料の「共同研究」や「相互寄贈」などの合意にとどめたことは決して偶然ではないだろう。これが、あらかじめ米国が韓国側に自制を求めた結果なのだとすれば、やはり今回の中韓首脳会談も「米中関係」の一環と理解すべきなのかもしれない。
スポンサーサイト
  • コメント : -
  • トラックバック : -

Appendix

最近の記事