Entries

新局面開く首相のバンドン演説

産経 東洋学園大学教授・櫻田淳  2015.4.27 05:00更新
 アジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議での安倍晋三首相の演説(以下、安倍演説と略)は、高い関心を寄せられるべき演説であった。

 第二次世界大戦後70年の節目に日本の「大義」や「信条」を表明する機会としては、此度の安倍演説や米国連邦議会上下両院合同会議での演説は、今夏に発出されると伝えられる「安倍談話」よりもはるかに重大な意義を持つ。この2つの演説に対する反響や評価は、先々の日本の国際社会における対外「説得性」に直接に関わってくる。

 ≪東南アジア諸国に示された配慮≫

 然るに、安倍演説の注目点として語られたのは、「植民地支配と侵略に対する謝罪と反省」に絡む認識が、どのように扱われるかということであった。

 特に満州事変以後の対中進出や第二次世界大戦勃発前後の対東南アジア進出は、客観的には「侵略」と表する他はないのであるとすれば、それに対する反省を忘れないでおくのは、特に東南アジア諸国との「縁」を紡いでいく上での前提である。

 安倍演説中、「先の大戦の深い反省」という言葉が示されたのは、東南アジア諸国には必要な配慮であった。この配慮の上でこそ、「侵略または侵略の脅威、武力行使によって、他国の領土保全や政治的独立を侵さない」という原則を守る趣旨の日本の誓約は、その「説得性」が担保されるのである。

 もっとも、安倍演説に対する評価に関して、中国や韓国、そして東南アジア諸国でニュアンスの違いが見られたのは、留意に値しよう。たとえば、安倍演説の後、洪磊中国外務省報道官は、「国際社会は日本が侵略の歴史を直視し、近隣諸国との和解だけでなく国際社会からの信頼を獲得するために、それ(歴史)を注意深く見直すことを期待している。われわれは日本が国際社会からの正義を求める声に真剣に耳を傾けてくれることを願う」と語っている。

 また、習近平中国国家主席は、5カ月ぶりに行われた日中首脳会談の席では、「歴史問題は中日関係の政治的基礎に関わる重大原則問題だ。日本側は真剣にアジアの隣国の懸念に対応し、歴史を直視する積極的なシグナルを対外的に発出してほしい」と語った。

 ≪「最厳冬期」が過ぎた日中関係≫

 習主席以下、中国政府の反応は、「前の戦争に対する反省が示されれば、今後、特段の謝罪の言葉を要しない」という線で落ち着きつつあることを示している。それは、日中関係における「最厳冬期」が既に過ぎている事情を反映しているのであろう。

 しかも、『朝日新聞』(ウェブ版、4月23日配信)記事が伝えた東南アジア諸国の反応が暗に示すように、事有る度に日本に謝罪を迫るという姿勢は、国際社会全体の「常識」に照らし合わせて異形なものになっている。

 東南アジア諸国要人の反応を列挙すれば、たとえば、「(お詫(わ)びがなかったことに)大きな意味は見いだしていない」(マレーシア通信マルチメディア相)、「特にわれわれが言うべきことはない」(ミャンマー外相)、「(お詫びなどの言及は)安倍首相が判断すること」(カンボジア外相)、「演説で触れられていない言葉についてコメントはない」(インドネシア外務次官)といったあんばいである。

 記事が伝えるように、東南アジア諸国においては「主な関心は日本によるアジア・アフリカ地域への積極的な経済関与だ」ということである。そして安倍演説で強調されたものこそ、こうした関与における「従来の実績」と「今後の意志」であったのではないか。

 ≪韓国に災厄もたらす「硬直」≫

 事実、此度のバンドン会議記念会議の成果として確認されたのは、貧困や格差の解消に向けた協調、さらには途上国の相互協力を通じた経済発展であった。これが、会議に集まったアジア・アフリカ諸国の最大公約数的な「要請」である。

 他方、韓国政府からは、「深い遺憾の意」が漏れている。安倍演説中、「植民地支配と侵略に対する謝罪と反省」という表現が消えたことを指してのことである。

 今月初頭、韓国外務省高官の発言として報じられた「日本は100回でも詫びるべきだ」という発言に重ねるとき、韓国政府の姿勢に「硬直」の二文字をみるしかないのは、もはや致し方ないことかもしれない。

 そして、安倍演説に対する中国や東南アジア諸国の反応に照らし合わせるとき、この「硬直」は、韓国にとっては先々の災厄になるであろう。

 そうであるとすれば、安倍演説で示された「反省したとしても謝罪はしない」という方針は、歴史認識案件での日本政府の姿勢の新たな「デフォルト(既定値)」になるのであろう。その意味では、この演説は、日本の対外政策における一つの局面を開いたものとなろう。次はワシントンでの演説が「鍵」となる。(さくらだ じゅん)
スポンサーサイト
  • コメント : -
  • トラックバック : -

Appendix

最近の記事