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ロシアが「シリア内戦」に軍事介入し、国連安保理に「対テロの共同軍事行動」を提案した背景を読み解く

白髪頭でズバリと斬る -じじ放談- 2015年10月04日

はじめに

4年前に始まったシリアの内戦は(1)アサド政府軍、(2)穏健派反政府軍(自由シリア軍ほか)、(3)イスラム原理主義過激派IS(イスラム国)やヌスラ戦線(アルカイダ系)、(4)クルド人国家の建設又は自治権拡大を狙うクルド人武装勢力が支配地拡大を巡って相争う消耗戦の様相を呈している。

シリア国民1900万人中1100万人が戦争難民に陥っているといわれているが、内訳は国内難民が約700万人、トルコ、ヨルダン、レバノン等に逃れた難民が約350万人、そしてドイツや英国等西欧への移住を求める難民が約50万人とされている。難民の中でも最も悲惨なのは国連やNGOの支援が届きにくい国内難民、その次が食料、医薬品、テント等の生活物資の供与が十分ではないトルコ、ヨルダン、レバノンに避難した難民だ。業者にカネを支払い、トルコ経由でギリシャ等に出国し独仏などへの移住を目指すことのできる階層は最も恵まれた難民(又は移民)といえる。

難民又は移民の引き受けについてドイツを初め欧州連合(EU)では「受け入れ分担策」を講じているが、これらはシリア難民対策の本筋とはいえない。我が国のシリア難民に対する支援は国内難民約700万人、周辺国に避難している難民約350万人、そして難民が押し寄せているトルコ、ヨルダン、レバノン等の各国政府への支援を中心に行うべきだろう。

第1:シリア内戦(消耗戦)は4年目に突入

長期の消耗戦を戦うためには(1)食料・弾薬等の補給ルートを確保していること、(2)戦闘で死傷した兵士又は脱走兵の欠員補充ができること、(3)戦闘に疲れ倦んだ兵士の戦闘意欲を持続できることが必須要件となる。内戦(消耗戦)は共倒れになるか又は内戦中の各派にエネルギーを注ぎ支援する国家・宗派・団体・個人が存在する限りいつまでも続く。

1.シリア内戦は各派を支援する4大勢力の代理戦争

(1)米国の主敵はイスラム原理主義過激派

2001.9.11の米中枢部に対する自爆テロ直後、ブッシュ大統領(当時)は「イスラム過激派(アルカイダ等)との対テロ戦争は20年続く」と表明した。米国はアフガン戦争、イラク戦争の後遺症に悩まされ、中東の泥沼から全面撤退することができない。宣戦布告から14年、米国は「対テロ20年戦争」の戦時体制下にある。オバマ大統領は毒ガス兵器を使用したアサド政府軍に対しては制裁を加えず、イスラム原理主義過激派アルカイダから派生したイスラム国(IS)とヌスラ戦線を主要な敵とみなし、掃討作戦を展開しているのは周知の通り。米国の「9.11に対する米国の報復戦争」は終わっていない。

(2)トルコ・サウジアラビア等(スンニ派)の主敵はアサド政府

スンニ派主要国にとって、シリアのアサド政権はスンニ派住民を毒ガス兵器等で大量に殺戮した許すことのできない主敵だ。一方、米国(英仏)が主導する有志連合による空爆はイスラム国(IS)やヌスラ戦線に的を絞っている。トルコ、サウジアラビア、ヨルダン等のスンニ派主要国は米国の要請に応えて一応有志国連合に加わり空爆に参加しているが熱心に取り組む気持ちにはなれない。トルコは米国がトルコ領内の米空軍基地から出撃するのを拒否してきた。トルコは「アサド政権打倒に動かない米国」に対する不満を行動で示した。スンニ派主要国は「IS討伐よりもアサド政権打倒を優先すべき」と考え、シリア反政府軍各派の支援に注力していることは間違いない。

米国はトルコ・サウジ・ヨルダン等の同盟国の意向を無視することもできず、とりあえず5000人規模の戦闘員を養成すると称して軍事訓練を行ってきたが計画倒れに終わっている。ようやく訓練を終えた50人をシリア領内に送り込んだものの戦意なくたちまち解散。同じく、米国製兵器を供与しシリア領内に送り込んだ70人の大半はアルカイダ系ヌスラ戦線に遭遇するや否や武器を放棄して逃亡。逃亡せず残っているのは7人のみという惨状だ。

米国が莫大な予算を注いで要請したイラク政府軍はバクダット近郊の戦略上の要所ラマデイをISに奪われた。ISはイラク政府軍が放棄した米国製兵器を大量に捕獲し戦力を増強した。さらに、イラク北部最大の都市モスル攻防戦において政府軍は米国から供与された戦車を含む重火器多数を放棄して脱走。結果、ISはイラク政府軍が放棄した武器を捕獲し戦力を大いに向上させることができた。米国の思惑に反して、米国が養成したイラク政府軍や自由シリア軍はISの主要な武器調達源になっている。

(3)ロシア・イラン・アサド政府軍の主敵は反政府軍全体

ロシアはこれまでシリア政府軍に軍事顧問団を派遣し、地対空ミサイル等を供与し、地中海沿岸のロシア海軍基地周辺(ラタキア)の飛行場を拡張して戦闘爆撃機、戦車、攻撃用ヘリを配備、ロシア軍兵士約500人を駐屯させてきた。今回、ロシアの戦闘爆撃機が突然、シリア反政府軍各派の拠点を空爆した。ロシア・イラン・アサド政府軍にとって、ISやヌスラ戦線だけでなく、有志連合が支援している自由シリア軍も打倒すべき敵だ。アサド政府の要請を受けたロシアが反政府軍全体を空爆しても何の不思議もない。オバマ政権は激怒しているが、ロシアは「カエルのツラにションベン」だ。

今、ロシアが軍事介入したのはなぜか?弱体化が著しいアサド政府軍の崩壊を食い止めるためか?ロシアが国連安保理に「対テロの共同軍事行動を提案する決議案」を提案したのはなぜか?アサド政権と穏健派反政府軍(自由シリア軍等)の休戦を実現し、「対IS国際統一戦線」を結成し、崩壊寸前のアサド政府軍に立ち直る時間的余裕を与えるためか?ロシアは「シリア版国共合作→国共内戦」を狙っているのか?

ロシアは先進国(G7)による経済制裁と、原油価格の暴落によって税収が激減、予算編成も困難に陥っているという。通貨ルーブルは急落、外資の国外逃避も頻発、物価が急騰し国民の生活は益々苦しくなっている。一方、ロシア政府はウクライナ問題でも、シリア問題でも強気の姿勢を崩していないが弱みを見せると付け込まれると恐れているのだ。ロシア経済にはウクライナとシリアの二正面作戦を遂行する力はない。苦境に追い込まれているから、逆に強気に出ざるを得ないのだ。

イランも長年の経済制裁により経済は悪化、物価が急騰し国民の不満が高まっている。これまでイランは革命防衛隊をイラク・シリア戦線に投入し、イラク政府とシリアのアサド政権を支えてきたが、4年に及ぶ消耗戦で相当疲労しているはずで、これから5年・10年も支援を続ける体力があるとは思えない。

(4)IS(イスラム国)の主敵は米・英・仏・中・露

イスラム教を邪教とみなし、聖なるアラブの大地に土足で踏み入り汚すものはイスラムの敵となる。第一次世界大戦後は英仏が、第二次世界大戦後は英露米がイスラムの敵となった。そして東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)ではイスラム教徒(ウイグル人)の多くが差別され、迫害を受け、虐殺されている。近年、イスラム過激派の一派が「中国共産党へのジハード(聖戦)」を表明した。

IS(イスラム国)の主敵は「戦後70年間、戦勝国の特権を振りかざしてきた国連常任理事国5か国」なのだ。抑圧されてきた民族が、主権回復を求め、又は栄光の歴史を復活させたいと念じ、抑圧者に対して聖戦を挑むのは大自然の摂理である。常任理事国5か国が空爆を繰り返しても、あるいは地上軍を派遣しても彼らの戦争を止めさせることはできない。

2.シリア(イラク)内戦を戦う各勢力の現況は?

(1)アサド政権軍

4年前、アサド政権軍の一部が離脱して「自由シリア軍」を結成した。欧米列強とスンニ派周辺国の支援を受けた「自由シリア軍」等反政府軍はアサド政権軍を圧倒する勢いがあった。アサド政権は政権存続のために毒ガス兵器で対抗した。この時、オバマ大統領が言行一致でアサド政権軍をミサイル攻撃したならばアサド政権は崩壊していたはずだ。戦争が嫌いで優柔不断な大統領オバマのお陰でアサド大統領の首がつながった。そして、シリア政府軍はイラン革命防衛隊とレバノン南部に割拠するシーア派過激派ヒズボラの援軍(義勇兵)を得たことで、一時的に形勢を挽回した。

シリア内戦も4年目。アサド政府軍将兵の死傷者も増え、イラン革命防衛隊やヒズボラの増派も期待できない。正規の軍事訓練を受けた職業軍人(国軍)の損耗も増えるから士気が下がる。死傷した職業軍人の穴は士気が高くない非正規の臨時雇い補充する以外にないから、士気はますます低下し脱走兵も増える。先般、IS軍が首都バクダッドのパレスチナ難民キャンプを占拠したこと及び首都バクダッドから数十キロに位置する交通の要所を支配下においたがあったが、これはアサド政府軍の弱体化が進んでいる証拠だ。

ロシアは焦っている。盟友のアサド政権が崩壊したならば、東地中海で唯一のロシア黒海艦隊海軍基地を維持することができなくなるのではないかと。そこで、ロシアはアサド政権を支えるため、又はアサド政権が崩壊してもロシアの在シリア海軍基地を維持するために、シリア内戦に関与し発言権を確保しておく必要があると考えた。ロシアが反政府軍支配地域に空爆を繰り返し存在感を高めているのも、そして国連安保理に「対テロの共同軍事行動を提案する決議案」を提出したのも「ロシア抜きの戦後処理は許さない」との意思表示だ。

(2)シリア反政府軍(穏健派)

米国はトルコ領内で軍事教練を施し、「速やかに自由シリア軍5000人を養成する」と豪語していた。結果、軍事訓練を施して前線に送り出した50人は脱走者続出で自然消滅。別働隊の70人はアルカイダ系ヌスラ戦線と遭遇し、大半が戦闘を交えることなく脱走、米国から供与された兵器はヌスラ戦線に捕獲された。残余兵は7人のみ。

反政府軍の中で、トルコ、サウジ、レバノン等スンニ派主要国が支援している各派もそれなりに内戦を戦っているのであろうが、目立った戦果は見えない。戦争のプロ(職業軍人)がいないためか、あるいは雇用条件が芳しくないため兵員の欠員補充が十分でないのか、鳴かず飛ばずの存在に留まっている。

内戦が続いているシリア(イラク)では多くの仕事が失われ、失業者が大量に発生しているはずで、仕事を求めて徘徊している無為徒食者が山ほどいる。彼らは政府軍、反政府軍、ヌスラ戦線及びIS軍に雇われ戦争に参加する。内戦は失業者を吸収する社会福祉事業という側面もある。したがって、もともと戦意が乏しい求職者をかき集めて軍事訓練を施しても、士気が向上するはずもなく、敵に遭遇すればたちまち武器を投げ捨て脱走するという訳なのだ。

(3)イスラム原理主義過激派「IS」とヌスラ戦線

ISやヌスラ戦線が有志国連合の空爆に耐え、比較優位な戦争を展開しているが、その理由は戦闘員の士気の差だ。イスラム原理主義ネットワークは支持者を戦場に送り込み、戦闘員の欠員補充に一定の役割を果たしている。また、「報酬目的」で参加する者、「イスラム帝国の復活」を夢見て参加するもの、「圧政や人種差別」への怨念を晴らすために参加するもの、「アラブの大地」を欧米列強やロシアの蹂躙から守らんと欲するもの等動機は様々であろうが、政府軍や穏健派反政府軍よりも士気が高いということなのだ。

さらに、ISはイラクの旧フセイン軍将兵(職業軍人)が指導しているようで、作戦も巧妙で緻密。形勢が不利であれば支配地域を放棄し、機会を見て攻撃し再占領するという具合だ。10年単位の消耗戦・持久戦を闘いぬくつもりであろう。

ISは「イスラム国」と称し、支配地域に軍事・警察・行政(徴税等)の各組織を立ち上げた。イラクの旧バース党政権がイスラム原理主義国家に名前を変えて水平移動したのか?米国はアフガン戦争でタリバン政権を打倒したが、まもなく「第2次タリバン政権」が復活する。米国はイラク戦争でバース党(フセイン)政権を打倒したが、まもなく「第2次バース党政権」が呼称を変えて復活するとはいえないだろうか?

(4)クルド人武装勢力

クルド人武装勢力は士気も高い。当初、欧米列強はクルド人武装勢力に最新兵器を供与すべきと考えていたが、いつの間にか音沙汰無しで消えてしまった。クルド人武装勢力が強化され、独立国家を目指すことを恐れるイラク政府、イラン・トルコ・シリア等周辺国が抵抗したのであろう。以来、数年が経過、クルド人武装勢力に最新兵器を供与するという話は立ち消えになった。先般、トルコ空軍はISを攻撃すると称してクルド人武装勢力地域を繰り返し空爆した。欧米列強は非難せず黙認した。クルド人武装勢力は周辺国の意向によって今回も「生かさず殺さず、使い捨てられる宿命(さだめ)」になっているのかもしれぬ。

まとめ

国連安保理常任理事国5か国が世界を統括するという戦後体制の最大の受益者は中共である。中共は中華民国(蒋介石政権)が獲得した安保理常任理事国を横取りした。先般、習近平は「9.3抗日戦争勝利70周年」の記念行事に莫大な費用を充て、事実上の戒厳令を敷いて大軍事パレードを行った。彼らが戦後体制(レジューム)の死守を叫ぶのは「戦後体制の特権」を失いたくないということなのだ。

先般の国連総会に出席した日本・ドイツ・インド・ブラジルの4か国首脳は「安保理は機能していない。改組すべき」で一致。戦後体制に対する異議申し立てを行った。戦後70年の世界情勢の変化、力関係の変化を国連安保理の構成に反映すべきというのである。

イスラム国(IS)はシリアとイラクの国境を認めない。1916年5月、第1次世界大戦の最中、英仏両国(後に露が加わる)が密約したオスマン帝国領の分割協議(サイクス・ピコ協定)による国境線を認めない。イスラム国(IS)にとっての「戦後体制からの脱却」とは第1次世界大戦で敗戦国となったオスマン帝国領の分割は認めないという意味なのだ。トルコ政府が言えないことをイスラム国(IS)が代弁しているように見える。

従来のイスラム過激派は(1)タリバン・ハマス・ヒズボラ・チェチェン等特定の地域を支配下におく定住型戦闘集団と、(2)アルカイダのようにテロリスト小集団が相互に連携し、戦場を求めて世界中を移動する非定住型戦闘集団に大別されてきた。「静と動」、「地域限定とグローバル」に分類することができた。

アルカイダ(グローバル)とバース党・旧フセイン軍(地域限定)が一体化したことでそれぞれの特異体質を継承するイスラム国(IS)という両生類が生まれた。シリアの過半とイラクの北部はISの支配下にあるが、同時にISは世界中のイスラム過激派とネットワークで結ばれている。イスラム教徒が多い国では雨後の筍の如く「IS○○支部」が生まれている。1930年代以降、世界各国で「コミンテルン○○支部」が生まれたように。

ISの影はアフガニスタン、タジキスタン、キルギスを超えて東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)へ延びている。ウイグル難民の脱出ルートは西方と南方に無数にあるほか、爆弾騒ぎで揺れているタイ・マレーシアルートや、連続爆発事件が発生した広西チワン族自治区・ベトナムルートもある。その先にトルコとイスラム国(IS)がある。

日露戦争直前、ロシア駐在武官明石元二郎大佐は仮想敵国ロシアの革命分子ウラジミール・レーニンに大金を贈与しロシアの赤色革命を支援した。後に、明石元二郎大佐(最終身分は台湾総督)は10個師団に相当する戦功があったとして顕彰された。

白髪爺 at 20:07
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