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中国、「時限爆弾」生産者物価の下落幅拡大がもたらす「結論」

勝又壽良の経済時評 2015-10-09 10:46

本当の危機が起きている 三重苦で追い詰められる

物価は、人間に喩えれば体温である。その体温がどんどん下がる事態は、生命の危険を知らせるものだ。中国経済の「心臓部」は製造業である。その生産者物価指数が、月を追うごとに下落幅を拡大させてきた。中国経済の危機である。そう見ざるをえない状況が刻々と迫っている。

このブログでは、中国の生産者物価指数の下落問題を克明に追っている。私が、かつて週刊東洋経済で景気担当記者当時、毎月の卸売物価指数と鉱工業生産者動向に全神経を払ってきた経験がある。景気の基調は、先ず卸売物価指数の変化に現れる。こうしたパターンから言えば、中国経済の現状は、「新常態」移行中など、能天気な発言を繰り返していられないところまで来ているはずだ。

本当の危機が起きている
『ロイター』(9月29日付)は、コラムで「株価乱高下より深刻な中国経済の『時限爆弾』」を掲載した。

①「中国は過去20年以上にわたり、主な金融危機をかろうじて免れてきた。だがそのような良い時も、まもなく終わりを告げるかもしれない。ただし、最近の株式相場の混乱がその原因ではない。この夏に起きた中国株の乱高下は、同国が深刻な経済危機に直面しているかどうかの議論に火を付けた。ニューヨーク・タイムズ紙とフォーチュン誌は、バブルは間違った警告にすぎず、中国に対する懸念は誇張されていると主張している。短期的に見れば、この主張の方が説得力はある。中国株式市場の混乱で影響を受けるのは同国世帯の15%に満たない。こうした中流層の投資家の大半は、数カ月前に株価が急騰した時にもうけた金を失ったにすぎない。上海総合指数は2014年7月と比べて、今なお1000ポイント高い水準にある」。

中国経済は、1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックを無事に乗り切っている。この間に、人民元相場の切り下げもせずに済ませてきた。一見、中国経済に危機を乗り切る柔軟性がある。そういう錯覚を与えるが、現実はそうでない。人民元相場は1994年に1ドル=5.8元程度から、一挙に3割強も引き下げて8.7元にした。

この「元安」を武器にして輸出を増やし「世界の下請け工場」の位置を確実なものにした。現在の人民元相場は、1ドル6.35元(10月1日)である。1994年の5.8元程度から見れば、まだまだ相当な「元安相場」である。日本は、1971年8月の1ドル360円から相次ぐ円高相場に揉まれてきた。この歴史から見れば、中国の元相場は「保護下」にあることは疑いない。

ニューヨーク・タイムズ紙とフォーチュン誌は、中国経済に対する懸念は誇張されていると主張している。果たして、そう言い切れるだろうか。確かに、現在の上海総合指数は3000ポイント近辺だ。2014年7月と比べて、今なお1000ポイント高い水準にある。だが、この裏には諸々の政府による「工作」がされている。信用取引の規制、大株主の売却禁止、企業への株式買い増し命令など、およそ自由な株式取引では行ってはならないことの「オンパレード」である。

現状は、延命装置を付けた「人工相場」である。それを正常なものと判断する、ニューヨーク・タイムズ紙とフォーチュン誌は、ジャーナリズムとして失格である。判断能力がなければ、しゃしゃり出てきて発言すべきであるまい。新規株式公開や増資もストップ状態である。企業の資金調達機能は麻痺したままである。こうした異常状態について、前記の二紙誌は全く気づいていないのだ。

株価がここまで下落し、さらに下げ余地は十分あると見られる現状で、「株式保有世帯は、中国の15%に満たない」など、トンチンカンなことを言うべきでない。全世帯の15%でも株式下落の悪影響を受けるならば、消費にとってマイナスになるはずだ。現に、自動車販売には急ブレーキが掛かっている。

②「近い将来に中国経済が崩壊することはあり得ないだろう。とはいえ、中国が経済崩壊に直面する次の大国となる可能性は高まっている。その主な理由の一つに、過剰生産能力が挙げられる。今に始まった問題ではないが、鉄鋼、ガラス、セメント、アルミ、太陽光発電パネル、発電装置の分野では最近、生産の過剰率が30%を超えており、企業が債務不履行(デフォルト)に陥りかねない水準にある。中国鉄鋼工業協会(CISA)によると、過剰供給による鉄鋼価格押し下げがひどいあまり、1トンの生産から得られる利益はアイスクリーム・コーン1つ当たりの価格にも満たないという」。

中国経済が近い将来、崩壊することはないものの、その危機に直面することはありうる。英語で言えば、「not、、、、but」の関係にあるとしている。つまり、中国経済は崩壊リスクを完全に「免じられている」わけでないのだ。この事実は重要である。具体的には、膨大な過剰設備を抱えていること原因がある。それが、後で触れる生産者物価指数の長期低落をもたらしている。「1トン鉄鋼の生産から得られる利益は、アイスクリーム・コーン1つ当たりの価格にも満たない」という極限に来ている。中国経済崩壊リスクは、限りなく増大しているのだ。

③「生産過剰は、地方政府間の悪しき競争が原因だ。高い国内総生産(GDP)伸び率を達成するため、地方政府は免税期間を設けたり土地の無償使用を認めたりするなどあらゆる助成を提供し、製造施設の建設を誘致する。さらに、国有銀行から低金利で融資が受けられるよう企業を支援することで、不自然なほど低い生産コストを可能にしている。生産過剰は中国経済を脅かす『時限爆弾』と化している」。

生産過剰は過剰設備=過剰投資の結果である。メダルに喩えれば、生産過剰の裏側は過剰債務の存在を示している。なぜ、過剰設備が生じたのか。中国経済のガンはここから始まっている。過剰設備を許したのは、中国が市場経済システムでない証明である。中国全土で市場経済システムが作動していれば、ここまで過剰な設備を作れるはずがない。過剰生産になれば、製品価格が下落して新規投資の採算が合わず中止する。よって、過剰設備を未然に防げるのだ。

現実は、そうでなかった。「社会主義市場経済」によって、地方政府ごとの独立経済圏=領主経済圏がつくられているのだ。A地方政府圏では設備過剰でも、B地方政府圏では設備不足で新規投資する。中国全土で地方政府圏ごとの経済が営まれるから、通算すれば膨大な設備保有になった。中国政府は、社会主義経済の輝かしき勝利と言っているが、それは事実に反している。膨大な設備を作る過程ではGDPを押し上げる。過去の中国経済が1978年の改革・解放政策以来、10%強の成長率になったのは、「社会主義市場経済」に基づく重複投資がもたらしたものに過ぎない。

今後は、この歯車が逆回転するだけである。過剰設備=過剰債務であるから、債務の返済時期に入る。だが、売上は低下している。具体的には、生産者物価指数の下落が続いている。それも、単なる下落ではない。前年同期比でマイナスである。この8月の生産者物価指数は前年同月比マイナス5.9%にもなった。42ヶ月連続のマイナスである。よくぞ、これだけ長期にマイナス状態を続けられるものと「感心」するのだ。

中国政府に、過剰設備を調整する能力がないことの証明でもある。地方政府経済圏は、地方政府管理の国有企業主体であるから、中央政府は「口出し」(干渉)できないシステムになっている。これまで、地方政府ごとに無軌道な成長政策を展開してきたので、中央政府と言えど、地方政府の「管理不能」に陥っている。膨大な債務(過剰債務)の返済となれば、地方政府の管轄になるので結局、対策もないままに共倒れを待つしかない。

三重苦で追い詰められる
④「企業は債務を返済するために借金を重ねているにほかならない。2014年時点で中国鉄鋼業界の負債は計4890億ドル(約58兆4800億円)。一方、上場している太陽光発電パネルメーカーの負債総額も190億ドルに上る。経済減速と過剰生産、それに債務増加が重なることで、倒産や不良債権の巨大な波が押し寄せてくることになるかもしれない。もしこの爆弾が爆発すれば、その影響は計り知れない。中国には日本のような成熟した社会的セーフティーネットも存在しなければ、米国のような政治的安定性にも欠けるため、経済だけでなく社会的、政治的な大混乱に直面する恐れがある」。

中国経済の抱える潜在的なリスクは、「経済減速と過剰生産、それに債務増加が重なることで、倒産や不良債権の巨大な波が押し寄せる」ことにある。中国経済が、明日にも破綻はしない。だが、日ごとにそのリスクは膨れあがっていく。経済減速で売上は減少する。債務を返済するには、さらなる過剰生産に陥る。自転車操業を余儀なくされるのだ。金融機関は、企業破産になると貸出が一挙に回収不可能になる。そこで、「追い貸し」をしてでも生き延びさせようとする。まさに、大量の「ゾンビ企業」を発生させるのだ。これが、中国経済の最悪事態を招いて、最後は「お手上げ」になろう。

私がこれまで言い続けてきたのは、中国政府が早く「見栄」を捨てて、法的な過剰債務処理に着手することである。「新常態」などという目眩ましをしても、中国経済は救えないのだ。債務のさらなる膨張を食い止めなければならない。その覚悟がないから、美辞麗句を並べお茶を濁しているのだろう。本来ならば、天安門で軍事パレードなど行っている余裕はないほど、追い込まれているはずだ。

中国経済が、最悪事態を迎えてGDPの成長率が5%を大きく割り込めば、雇用問題に火がつくであろう。社会騒乱に発展する。習近平氏はそれを見込んでいるのか、治安維持に向けて屋上屋を重ねる強権体制を築いた。習氏は、反腐敗闘争を行い政敵の反感を買っている。景気急落を利用した「反習近平」一派が登場しない保証はどこにもない。

実は、習氏が海外へ出かけるとき、人民解放軍が妙な動きをしている。「9月22日、習近平中国国家主席は米国を正式訪問した。その一週間前、中国軍が米軍機に異常接近するという『事件』が起きた。習主席が外国訪問中に、軍部が『暴走』するケースは2014年も起きている。同9月にインド訪問中、カシミールへ中国軍が侵入した。中国の政治闘争は、外交にも飛び火しているのだ」(『大紀元』9月27日付)。

こういう人民解放軍による習近平国家主席への「嫌がらせ事件」は、反腐敗闘争への抵抗と見られている。この前兆から見れば、GDPが5%を割り込み雇用問題が発生した場合、習氏への不満分子が同調して動き出す危険性がないとは言えない。そこが、専制政治国家特有の政治的社会的な脆弱性である。専制国家が倒れるときは、内部矛盾が解決不可能になる場合である。外部から「敵」が襲うわけでない。中国は膨大な軍備を持っても、中国共産党は決して安泰でない。内部から崩れる危険性の方がはるかに高いのだ。

⑤「危機を回避するために、習近平国家主席と政策立案者たちは過剰生産問題に重点的に取り組まねばならない。
第一に、習氏は地方政府の税金軽減に対する厳格な規則を設け、企業助成の透明性を確実に高めるべきだ。このような規則に基づき、同氏は革新とサービス業主導型経済への移行を首尾よく進めることができるだろう。
第二に、習政権は、地方政府からの反対があったとしても、倒産企業の整理を奨励すべきだ。このような企業を過保護に扱うことは、経営不良と低効率を助長することになる。
第三に、金融市場改革を加速する必要がある。国有銀行に支配される現行の金融制度において、企業はイノベーションよりも成長拡大を目指し、それが過剰生産につながっている」。

「蟻の一穴」で頑丈な堤防も崩れるという。この喩えによれば、「過剰生産問題」が習近平政権をひび割れさせる。これを避けるには三つの道が遺されている、と指揮している。第一は、革新型とサービス業主導の経済へ移行させるべく、透明性を維持して企業助成を行う。第二は、非効率企業(ゾンビ企業)を整理する。第三は、現行の金融制度の改革である。以上の三点を厳格に行うには、市場機能を生かすしか方法はない。「社会主義市場経済」というまやかしの「市場経済」では、過去と同じ過ちの繰り返しになろう。

「過剰生産問題」を解決する最善の道は、過剰債務の整理に尽きよう。「ゾンビ企業」は早く整理倒産させる。新たにサービス関連企業は、市場原理に基づいて企業化させる。地方政府は、そのための資金調達などで便宜を図れば良いのだ。中国経済の元凶は国有企業である。習近平政権ではこれを保護する方針だ。共産党員の既得権益保護のためである。現在の共産党政権では、最大の受益者である共産党員の利害関係に反して、何ごとも進まない構造である。国有企業保護は、共産党員の利益のシンボルである。だから、指一本も手を付けられない運命である。これで、中国経済が危機を回避できるとは思えない。
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