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ロシアのシリア「のめり込み」は止められない なぜ軍事介入をエスカレートさせているのか

東洋経済オンライン / 2015年11月25日 20時5分

ロシアがシリアにのめり込んでいる。規模拡大により戦略爆撃機や巡航ミサイルまでも投入しており、これはすでに大規模な戦争に相当するものだ。内戦対応以上の介入をしており、まさに「のめり込み」という表現がぴったりだ。

24日には戦闘爆撃機をトルコに撃墜されたように、国境線近くまでも爆撃範囲に含めようとしているようである。さらにフランスとの軍事協力を申し出ており、米国との協調も模索している。

なぜロシアはシリアにのめり込むのか

その目的について、報道等ではシリアでの権益確保と観測されている。シリアは旧ソ連の時代からロシアの影響圏であり、しかも中東、地中海世界に残る唯一の友好国だ。その影響力を残すためにロシアは介入した、という見立てだ。

だが、今回の介入の本質は、むしろロシア国内事情を反映したものだ。ロシアは経済、外交、領土問題で行き詰まっており、国民には閉塞感が生まれている。これは「失敗」ということを認められないプーチンの独裁体勢には都合が悪い。このため、シリア介入とロシア軍の活躍により注目を国内問題からそらし、国民にロシア外交・安全保障の勝利を印象付けようとした。そのようにみえるのである。

現在、ロシア経済は不況下にあり改善する見込みはない。この点で国民は不満を持っている。

今年のロシア経済は4%程度のマイナス、来年も0.5%のマイナス成長となる見込みである。これは原油価格下落と西側の経済制裁によるものだ。ここ15年ほど5-10%の経済成長を続けてきたロシア国民には大ショックである。

特に、モノグラードの不況は社会不安となりかねない。モノグラードとは、単一産業に依存する工業都市のことだ。300ほどの都市が該当し、1400万人の労働者と1100万の家族が暮らしている。その不振により雇用不安や賃金下落が広がっており、健康保険ほかの福利厚生、水道や極寒地で必須のセントラル・ヒーティングといった会社提供の諸サービスも危うくなっている。これはプーチン政権での問題といわれている。

これらの問題は短期的な改善を望めない。原因は石油の国際価格にあるためロシア一国では如何ともしがたいためだ。

その上、今後は食料問題も深刻化する可能性が高い。海水温の異変であるエルニーニョ現象は春まで続く見込みであり、2016年には天候不順が見込まれている。高緯度に位置するロシアは影響を強く受ける。さらに農作物の国際価格も上昇する。食料や飼料を輸入するにしても、経済不況下のロシアには厳しい。餓死に及ぶものではないだろうが、食肉価格の上昇等により国民不満を高める要素となる。

外交の失敗も重ねてきた

また外交でもロシアは包囲網下にある。国民は現状に閉塞感を持ち始めており、政府の失策と疑いかねない状態にある。実際、クリミア問題以降、西側からの厳しい態度は続いている。経済制裁がそれであるが、これも国民には政府の失敗を印象づけるものとなる。

軍事面での封じ込めも無視できるものではない。昨年来、NATOの東欧シフトは進んでいる。ロシア警戒感が強い東欧諸国は対ソ戦備を増強し、NATO加盟国軍を招き入れ、事実上の駐留状態を作り上げている。特にバルト三国にNATO戦力が駐留する状態は、ロシアやその国民にとっての脅威ともなっている。陸上国境を接しており、モスクワまで500km台と間近なためだ。

アジア方面での外交的勝利も見込めない。ヨーロッパ部でうまく行かなくなるとアジアに手を延ばす傾向があるが、今回はそれにも失敗している。日中との外交改善を進めようとしたものの、中国にはエネルギー協力で足許を見られ、日本には協力関係進展を拒絶された状況にある。アジア各国の成長と、対照的な極東部の衰退により既にロシアはアジアでは大国ではない

そして、領土問題でもロシアは後退を続けている。この点でロシアの国民感情は傷つけられており、また政府は成功を収められていない。

ロシアは長期的に縮小を続けている。ソ連崩壊により東欧衛星国を失い、バルト三国、ウクライナ、ベラルーシ、中央アジア各国の独立を許した。以降もチェチェン等の民族運動を抱え込んでおり、今以上の縮小はあり得る話である。さらに将来的にはベラルーシやシベリア諸民族との関係も安定化できるかわからない。

そもそもウクライナ問題でもロシアは勝利を収めていない。確かにクリミアを獲得し、ウクライナ東部を影響圏とし、勝利を演出した。だが、肝心のウクライナ本体はロシアの影響圏を離れ、そこでの権益を失っている。

 そして、ウクライナ東部でもロシアの影響力は怪しげな状況にある。最近ではウクライナが巻き返しを図っている。そこでロシア勢力が完全勝利を獲得できない状況も、潜在的ではあるが、ロシア国民にとって不満を募らせる要因となる。

これらは、プーチン独裁体勢には都合が悪い。政権は「強いロシア」の実現で支持されている。それに失敗すれば、あるいはその実現を疑われれば、独裁体制の正当性を喪われ政権維持は危うくなる。

なによりも致命的なのは経済問題だ。これまでも政権は種々の失敗を犯してきた。だがそれは強力な経済成長により糊塗され、その政治問題化は防止された。しかし今後は経済不調でそれは不可能となり、その大不況そのものが「強いロシア」も疑わせる要素となるのである。

その上に外交、領土での問題もある。政権にとってはいつ破裂するかの爆弾要素である。

シリアでのロシア介入は、この苦境を国民から隠蔽するためなのだろう。現地での軍事力活躍で「強いロシア」を印象付け、フランス、さらにはアメリカとの協調によっても外交的な閉塞状況の改善を期待させる。さらにアサド政権の延命により、ロシア影響圏は保持されたと国民向けに宣伝できる。

シリア介入そのものに実利が見込めないことも、それを補強する。そもそも、現地には大した経済的な権益はない。フランスやアメリカとの協調もウクライナ問題による経済制裁の改善に繋がる見込みもない。そもそもアサド政権の扱いでうまくいなかい可能性は高い。

国内事情を改善できないかぎり介入は続く

以上の理由から、国内事情を改善できないかぎり、ロシアはシリア介入をやめられないはずだ。

前述のように「原油価格低迷が続けば、ロシアは経済的事情からは介入継続が難しくなる」といった報道が散見されるのだが、おそらく実際はその逆である。原油価格の低迷、あるいは今以上の下落によりロシア経済が悪化しても、プーチン政権は国内問題を糊塗するため、むしろ今以上の介入を続けるだろう。

強力な兵器の投入により、シリア問題では「強いロシア」が印象付けられている。だが、それはロシア国内やプーチンの苦境の裏返しにも見えるのである。
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