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激動の朝鮮半島。「北の脅威」のおかげで日本は対韓国外交に勝利した

現代ビジネス    2016年01月08日(金)  長谷川 幸洋

習近平の横っ面を張り飛ばした金正恩

朝鮮半島に激震が走った。北朝鮮が実施した4回目の核実験は日本に対する重大な脅威であるだけでなく、東アジア全体にとっても脅威になる。直前の年末には、韓国が慰安婦問題の解決で合意した。一連の朝鮮半島情勢をどうみるか。

今回の核実験でもっとも注目すべきなのは、事前に中国に通告していなかった点だ。中国はかねて北朝鮮の核実験に強く反対してきた。習近平体制発足後の2013年12月に3回目の核実験をしたことで、中朝関係関係は完全に冷え込んでいた。

中国は昨年10月、朝鮮労働党創健70年記念行事に中国共産党序列5位の劉雲山・政治局常務委員を北朝鮮に派遣し、徐々に関係改善に乗り出すかと思われた矢先だった。そこへ突然、通告なしに核実験を実施したのは、言ってみれば「お前の意向など関係ない」とばかり、最高指導者の金正恩が習近平国家主席の横っ面を張り飛ばしたようなふるまいである。

これで中朝関係は従来にも増して冷え込むだろう。冷え込むどころか対立する、とみていいかもしれない。

なぜ北朝鮮は後ろ盾である中国との関係悪化を覚悟しても、核実験に走ったのか。それは、金正恩がそうする以外に身を守る術がないほど追い詰められていたからだ。「核兵器さえ手に入れれば、だれも攻めてこないし話も聞くだろう。国内の求心力も増す」。そういう発想だ。

中国にしてみれば「北朝鮮は言うことを聞く子分」であり続けるのが好都合だった。子分が究極の兵器を手に入れてしまうと、親分の話を聞かなくなる可能性が増すので核実験に反対してきたが、いまや子分は独り歩きを始めた。

子分のふるまいにどう始末をつけるかは当面、親分の判断次第だ。北朝鮮が言うことを聞かない姿勢を鮮明にした以上、中国は北の封じ込めで、南シナ海で対立する米国や日本と協調する可能性も出てきた。

北朝鮮は日米にもちろん脅威だが、東アジアの盟主を目指している中国にとっても、北朝鮮はなんとかコントロールしなければならない「厄介な元子分」になってしまった。

事態はまったく流動的である。もともと世界の法秩序などお構いなしの中国と北朝鮮の話だから、どう転ぶかは、いまの段階ではまったく読み切れない。

面倒な韓国

一方、日本と韓国は昨年末、慰安婦問題の解決で合意した。だが、合意内容をめぐって双方の国内で評価と批判が交錯している。

韓国の批判派は「日本が法的責任を認めていない」「新たな財団に日本が10億円支出しても賠償にならない」と訴える。一方、日本の保守派は「そもそも賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み」「なんでまた10億円も払うのか」と批判している。

一部マスコミは、日本政府が大使館前の慰安婦像撤去を10億円拠出の条件とし、韓国政府も内々に確認済みと報じた(たとえば朝日新聞12月30日付、http://www.asahi.com/articles/ASHDY54ZXHDYUTFK00B.html)。だが、韓国側は報道に反発している。

韓国の尹炳世外相が表明したのは「関係団体との協議などを通じて適切に解決されるよう努力する」という「努力約束」だけだ。だから「努力したけど反対派(韓国挺身隊問題対策協議会)を説得できませんでした」という結果になる可能性はある。

韓国政府が反対派の説得をあきらめて慰安婦像が撤去されなければ、日本が10億円の拠出に応じず、合意が宙に浮いてしまう可能性もある。慰安婦像が撤去されないのに10億円を支払ってしまうと、「現状維持を日本政府が認めた」という話になりかねないからだ。

したがって声明の文言はともかく事実上、慰安婦像撤去は条件とみていい。

朴槿恵の焦燥

私は11月6日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/46233)で「慰安婦像の撤去、少なくとも撤去の努力を約束するかどうかが、韓国政府の本気度を測るリトマス試験紙になる」と書いた。今回の合意はまさにそこを突いた形だ。

なぜ韓国は今回、合意に動いたのか。韓国は日本との関係を改善しないわけにはいかなかったのだ。理由は3つ。まず北朝鮮の脅威、次に米国の圧力、それから経済の立て直しである。

北朝鮮の脅威は今回の核実験でますます明白になった。核兵器を使うかどうかはさておき、いざとなれば北朝鮮が実力を行使するのは2010年11月の延坪島砲撃事件で実証済みである。

米国は北朝鮮の脅威に対抗するために、中国に接近した韓国を日米側に呼び戻したかった。それには「喉に刺さった骨」状態の慰安婦問題を解決しなければならない。だから米国はこれまで何度も日本と韓国に問題解決を働きかけてきた。

韓国経済はガタガタだ。韓国は中国向け輸出で息をつないできたが、相手がバブル崩壊で失速してしまったので、経済面でも日米に顔を向けざるを得ない。

一言で言えば、いまや韓国は安全保障と経済で深刻なガタがきていて、対中路線一辺倒では国を立て直せなくなってしまった。そこで日本との関係を改善して息をつく出口を見出そうとしているのだ。

慰安婦問題とは最初から、その程度の問題である。国の平和と繁栄をどう実現するかという観点で見れば、過去の話をほじくり返すより、出口がない現状をどう打開するかのほうがはるかに重要である。今回の核実験で韓国はあらためて、そう実感しているに違いない。

それは日本も同じだ。北朝鮮の脅威に対する対処が重要課題になった以上、日米韓の連携がこれまで以上に鍵を握る。したがって、今回の合意は適切だった。

とりわけ両国外相が会見で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と述べた点が重要だ。この一言は今後、韓国政府を縛る。

韓国の反対派はともかく政府が問題を再燃させれば、それこそ韓国は国際社会で相手にされなくなる。反対派説得は韓国政府の仕事であり、仮に説得できず合意が破談になったとしても韓国の責任である。もうボールは日本に戻ってこない。

どう転んでも、日本が国際的に批判される展開にはならない。合意によって日本の立場が国際的に強くなったとみれば、10億円は安いとさえ言えるだろう。

「終わった話を持ち出す韓国には頭にくる」という感情論を理解できなくもないが、ここは勝利の外交とみるべきだ。
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