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中国、「インドネシア」高速鉄道敷設で暗雲「杜撰計画のつけ」

勝又壽良の経済時評 2016-02-13 05:35:53

エコノミック・ショート・ショート

「因果応報」と言うべきだろう。日本が心血を注いで数年間、下調査を進めてきたインドネシアの高速鉄道計画を、中国はなんの準備もしないで横取りした。日本側の調査データをインドネシアからの横流しによって、準備万端整ったように格好をつけ応札したもの。だが、早くもボロが出ている。データを横流しする側、それを唆した中国側。ともに、賄賂文化にどっぷり浸かった両国の「共同謀議」である。

人を騙して成果を挙げたいという悪辣な話は、必ず頓挫するものだ。中国は、「イソップ物語」に出てきそうな展開になっている。高速鉄道の起工式は行ったが、そこでストップ。インドネシア運輸省から工事許可書が出ないのだ。インドネシア大統領は工事に前向きだが、所管の運輸省が消極的という妙な関係である。これでは今後、中国企業は苦労させられることは明白。早くも、「工事放棄か」という芳しくない噂が立ち始めている。

この問題は、2月6日のブログで簡単に取り上げた。中国企業の不手際は、世界的な注目を浴びている。英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』や米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じるほどの関心を呼んでいる。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月4日付)は、「中国主導の高速鉄道計画は欠陥だらけ、インドネシア運輸省が列挙」と報じた。

この記事では、工事が立ち往生している事情がよく分かる。要約すれば、中国側の準備不足は明らかで、「受注さえすれば何とかなる」という甘さが目立っている。中国では専制政治故に政府が命令すれば、たちどころに物事は決まる。インドネシアは民主主義国だ。「一刀両断」という訳にはいかない。丁寧な話し合いを積み重ねて一つ一つ了解を取っていく。中国企業は、こういう「積み上げ方式」が不慣れである。

以下のパラグラフを読むと、果たして工事は順調に進むのかどうか。難問山積だ。インドネシア政府から、さらに高速鉄道完成後も運行保保証100年間の要求が突きつけられている。中国は運行まで責任を負うもので、極めてリスキーである。こういうコマーシャルベースでは考えられない条件を課せられている、高速鉄道の受注欲しさに、100年間赤字でも運行せざるを得なくなった。インドネシア政府にまんまと引っかけられたというほかない。ほぼ、日本の受注確定と見られていた。そこへ、中国が横車を押してきた。飛んで火にいる夏の虫である。すべての条件を飲まざるを得ない立場に追い込まれている。

全長140キロメートルのうち、工事計画が出たのはたったの5キロにすぎない。しかも18年末の完成、19年の運行開始の大目標がかかっている。これだけ見ても「不可能」という3字が頭をよぎる。もともと、乗客の少ない路線と言われる。財政援助がなければ経営の維持が困難という研究論文もある場所だ。中国は、日本の受注を横取りしたが、前途遼遠どころではない。途中で工事放棄だと、中国自体の信頼が問われることになりそうだ。

①「インドネシア運輸省は2月3日、中国が資金を拠出する総額55億ドル(約6500億円)の高速鉄道計画について数多くの欠陥を指摘した。これは、同計画に疑問を投げ掛けると同時に、外国投資誘致に積極的なジョコ大統領の巨大事業を実行する力の限界を浮き彫りにしている。同運輸省のヘルマント・ドウィアトモコ鉄道総局長は、鳴り物入りの高速鉄道計画について同省が認可をためらっていることを弁護した」。

時速250キロ以上の速度で突っ走る高速鉄道の建設である。いい加減な工事計画では「建設ゴー」のサインは出せない。至極、もっともである。ジョコ大統領は政治的な思惑が先行しているが、所管の運輸省としては万一、営業運行を始めて事故が起こったならば、責任問題になる。細部に至るまで注文をつけるのは当然だ。

②「同総局長は、鉄道を主導する中国とインドネシアのコンソーシアムは、まだインドネシアの安全規制を設計に織り込んでおらず、提案されている全長140キロメートルの路線のうちわずか5キロの敷設計画を提出しただけであることを明らかにした」。

建設計画が出たのはわずかの5キロメートルに過ぎない。これでは本来、起工式などできるはずもないのだ。大統領のメンツから強引に起工式を行ったものだろう。なにやら、最初から嫌な雰囲気を感じるのだ。起工式は挙げたが、その先は白紙状態というのが正確な表現である。中国企業らしい杜撰さである。

②「高速鉄道について、インドネシアは隣接する軌道の中心線の間隔を5メートルとするよう要求している。現在の鉄道計画では4.6メートルしかない。1月、ジョコ大統領は政府当局に対し、この鉄道計画を速やかに認可するよう要請し、その後、起工式典を挙行した。ヘルマント鉄道総局長は3日、記者団に対し、『(この認可プロセスを)われわれが複雑にしているのでないことを、どうか理解していただきたい』と述べた。

高速鉄道は、隣接の鉄道軌道から安全上、5メートルの間隔を要求されている。ところが、提出された建設計画では4.6メートルしかない。当然、接触事故を起こす恐れが十分である。これでは、運輸省が「OK」の工事許可証を出せるはずがないのだ。一体、中国側は何を考えているのか。そういう疑念を抱かせる行動である。中国の高速鉄道建設では、こうしたデタラメな計画を出していたのだろうか。ナゾが深まるばかりである。

③「同総局長は、コンソーシアム(注:企業体)が最初の鉄道5キロについて2カ月以内に計画を修正できると述べたが、残りの建設計画の認可が得られるか、得れるとすればいつかについては言及を避けた。同コンソーシアムは、中国と東南アジア最大の経済国であるインドネシアの国営企業との合同チーム。中国の建設・エンジニアリング会社の中国鉄建と、インドネシアの建設会社ウィジャヤ・カルヤが中心になっている。同コンソーシアムは昨年10月、鉄道建設契約を結んだ。2019年には運行を開始する予定だ」。

140キロメートルのうち5キロは2ヶ月以内に計画の修正ができても、あとの135キロの建設計画については「白紙」である。こんな調子では2019年運行開始計画に疑問符がつく。杜撰というか、無計画というか。言葉を知らない。日本企業の感覚からすれば想像もできない話であろう。この程度の「実力」で、日本の新幹線に対抗すると言ってきたのだ。「不思議な国の企業」とでもいうのだろうか。まともに相手にできない手合いであろう。

④「起工式のあと、インドネシア当局者は、同コンソーシアムが今後、とりわけ環境への影響を見極める必要があるほか、線路を敷設するための土地を何百ヘクタールも取得する必要があると述べている。ヘルマント鉄道総局長は同日、建設会社は鉄道の運行保証期間を100年間とし、提案された60年間をさらに延長する必要があると述べ、地震の発生しやすい区間については補強しなければならないと語った」。

このパラグラフを読むと、高速鉄道建設に伴う土地買収交渉や環境保護という難問題が控えている。その上、運行保証期間100年間という条件がつけられている。高速鉄道運行が赤字だろうと、中国側が100年間、黙って経営するという条件だ。地震の発生しやすい区間については耐震補強をしなければならない。こうなると、総工事費55億ドル(約6500億円)では、運行100年間保証まで考えると、採算に乗る可能性が限りなく小さくなるはずだ。

中国は、こんな無謀な高速鉄道契約を、よく結んだものと呆れるほかない。中国は、破格の条件を提示して日本受注を阻止した。そこまでは、当初の狙い通りであった。だが、いざ具体的な建設計画を提示する段階で、インドネシア運輸省と思惑違いが次々に表面化している。運行保証期間60年が、実は100年間という要求に変わっている。インドネシア運輸省に利用されている感じだ。それほど、採算を取るのが困難な路線でもあろう。ならば、高速鉄道建設を中止すれば良かったはず。インドネシアは、建設と運行のリスクをすべて中国へ押しつけて、果実だけは「頂く」という虫の良い計画である。

中国は、受注欲しさに緩い条件を提示した。インドネシア運輸省が、それをさらに手玉にとって、次々と厳しい条件を付け加えている。正式な工事許可書が出ていない前だから、工事許可書が欲しければこれら条件を飲むほかあるまい。あるいは、中国が思い切って契約を白紙に戻すのか。にわかに注目される。

⑤「提案された高速鉄道計画は、この種のものとしては東南アジアで初めて。ジャワ島西部にある首都ジャカルタと大都市バンドンを結ぶ路線を運行する。日本企業は数年間にわたり高速鉄道プロジェクトを調査してきたが、昨年の高速鉄道敷設計画入札でライバルの中国・インドネシア・コンソーシアムに敗れた。その際、同コンソーシアムはインドネシア政府から建設融資保証を受けず、国庫からの資金なしで建設することに同意した。だが、 同プロジェクトは政府支援なしでは実現できないとする研究結果があると指摘する向きもある」。

中国は、高速鉄道受注欲しさに、インドネシア政府から建設融資保証を受けず、国庫からの資金なしで建設することに同意した。今になってみれば、大変に難物プロジェクトに手を挙げたことになった。同プロジェクトは、政府支援なしでは実現できないとする研究結果が出ている。日本側の提案では、政府保証を求めていた。日本提案の方が、はるかに合理的である。中国の杜撰な計画と、日本の慎重な計画を比較して分かることは、日中の民度の違いということだろう。
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