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メルケルが「難民対策」で自滅!?~EUでも孤立、もう制御不能です  州議会選挙目前なのに…

現代ビジネス  2016年03月04日(金)   川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

ドイツ国民が抱える不安

内務省の発表によると、去年、ドイツで難民申請をした110万人のうち、13万人が行方不明になっているらしい。少なくとも10人に1人はいなくなってしまったということだ。

審査中の難民には宿舎が指定されているが、自由な行動は許されているので、その気になれば消えてしまうこともできる。

もとより難民申請をしても、全員が難民と認められるわけではない。北アフリカ諸国やバルカン半島など「安全な第三国」と定められている国から来た人たちは、どうせ審査で落ちる。だったら、結果が出る前に雲隠れしてしまおうという魂胆だろう。

行方不明の難民の大半は、おそらくお金を稼ぐために潜伏していると思われる。不法滞在、ヤミ労働になるので労働条件は悪いが、それでもドイツでの賃金は彼らにとって魅力だ。そもそも母国では職がない。

ただ、都合の悪いことに、安全な第三国と言われる国々では、犯罪率がとても高い。だから、いなくなった13万人がどこで何をしているかと考えると、ドイツ国民としてはかなり不安だ。

主要メディアは相変わらず難民や外国人の犯罪をあまり報道しないが、ネットを見ると、毎日かなりたくさんの事件が報告されている。大勢で女性を取り囲んでいたずらしたり、あるいは、ナイフで切りつけたり。

2月26日のケルンでは、嫌がらせを受けている女の子を助けようとした15歳の男子生徒が殴られ、大怪我をした。

おかしなことだが、現在の難民に関する法律では、難民申請をしている人が罪を犯しても、それは審査に影響を与えない。審査が中止されるには、少なくとも3年以上の懲役が科されなければならないという。

ドイツ政府の狙い

去年、27歳のリビア人がナイフとペッパースプレーでスーパーの店員を脅したにもかかわらず、彼の難民審査がそのまま続行されているという事実が明るみに出て、これが問題化した。

また、現行の法律では、難民が罪を犯して母国への送還が決まっても、その人物が母国で拷問されたり、あるいは、宗教や人種のために抑圧されることがわかっている場合は、送り返すことができない。

今年になって法律が若干改正され、犯罪者にとって母国が危険なら、他の国に送還できることになった。大抵の難民はトルコ経由で入っているので、ドイツ政府は犯罪を犯した難民はトルコに戻してしまおうと考えているらしい。

現在、それについて政府間交渉が行われているというが、トルコが犯罪者を喜んで引き取るとは思えない。よほどお金を積むか、良い交換条件を持ち出さなければダメだろう。

一方で、反対に、ドイツ人による難民への攻撃も増えている。連邦検事局の発表によれば、難民の宿舎に、放火など何らかの攻撃を加えた犯罪は、2011年にはたったの18件だったが、2014年には199件、そして2015年には924件と、一年で4倍以上に膨れ上がった。

国民の不満や不安を受けて、2月25日に難民法の改定が決まり、今後は支援が少し削減されることになった。たとえば、正式な難民としてではなく、制限的な資格でドイツに留まれることになった難民は、2年が経過してからでないと家族を呼びよせられないとか。

これまでは父親、あるいは未成年の息子が先にきて難民資格を取り、そのあと家族を呼び寄せるというのが普通だった。ただ、去年は110万人も入国したので、そのうちドイツに留まれる人の数が50万だとしても、彼らが家族を呼び寄せれば、それだけであっという間に200万、300万に達してしまう。中東の人たちは子沢山だ。

しかし、2年間も家族を呼び寄せられないとなると、あきらめて自発的に国に戻る難民も少なからずいるだろう。ドイツ政府はそれを狙っている。

メルケル首相「方向転換は一切なし」

2月28日夜、第一テレビでメルケル首相のインタビュー番組があった。ほぼ一時間、インタビュアーの女性アンネ・ヴィルとの丁々発止の応酬は、かなり見応えがあった。視聴者は602万人、視聴率は20パーセント。国民の難民問題に対する関心の高さが窺われる。

メルケル首相は未だに、難民受け入れに人数制限は設けない方針で、それに対して、与野党内で反対の声が高まっている。しかも、力強い味方であったはずのオーストリアまでが、バルカン半島の国々に働きかけて、ギリシャから入ってくる難民を遮断し始めた。以来、オーストリアの受け入れ人数は1日80人。

また、フランスも北欧の国々もすでにそれぞれ厳しい人数制限をかけている。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアにいたっては、受け入れを全面拒否。現在、EU28ヵ国のうち23ヵ国が難民受け入れには反対か、非常に消極的という状態で、メルケル氏はEUでも孤立している。だから、番組のタイトルは、「首相、いつ方向転換をするのですか?」

しかし、メルケル首相の答えは明瞭で、「方向転換は一切なし」。多くの国が勝手に始めた国境閉鎖は誤りで、解決法はEUレベルで見いだすしかないという。

つまり、EUの国境を防衛して不法入国を防ぎ、難民は、EU諸国が手分けして引き取る。これこそが、後で恥じることのない唯一の人道的なやり方だ、というのがメルケル氏の主張だ。もちろん、自国の国境を閉鎖してしまったオーストリアや東欧の国に対する痛烈な批判でもある。

マケドニア国境の惨状

しかし、ちょうどそのころ、ギリシャとマケドニアの国境の町、イドメニでは何が起こっていたか?

ここには、鉄条網がぐるぐる巻きになった頑丈な柵が築かれていた。ギリシャのイドメニからマケドニアに入ろうとした難民は立ち往生し、その数はあっという間に膨れ上がった。南国といえども冬。野ざらしのまま、水も食料も極度に不足し、報道陣が送ってくる映像は想像を絶する。

29日になって、事態はさらにエスカレート。絶望した難民が鉄条網付きの柵を壊し始めた。鉄条網と書いたが、実は、付いているのは針ではない。写真(次ページ)で蝶々のように見えるそれは、カミソリだ。

命がけの難民に、マケドニアの国境警備隊は催涙弾で応酬し、混乱はピークに達した。3月2日、厳しい制限をつけながら、国境は再び開かれたが、到着する難民は後を絶たず、状況はさらに緊張を高めている。

この状況は、昨年夏のハンガリーと酷似している。当時、メルケル氏はハンガリーで立ち往生していた難民を引き取り、「ドイツ国民を誇りに思う」と言ったのだ。だからオーストリアの首相いわく、「この難民も、ドイツが直接引きとればよい」と。

しかし今、メルケル氏はもちろん、そんなことはできない。それどころか、国境を防衛せず、入ってきた難民の保護もしないギリシャを責め始めた。ドイツの独善的な言い分に、多くの国はイラついている

出口は見えるのか

3月7日には、トルコを交えたEUの緊急会議が開かれる。本当に、メルケル氏の唱えるEUレベルの解決策が見つかるのか。トルコはどこまで協力してくれるのかーー。

イドメニの映像は壮絶で、あまりにもインパクトが強い。だから、これがEU各国の利己主義を諌め、人道的解決の糸口となる可能性も高い。いずれにしても、この会議がEUの将来を決めることになる。

ドイツでは今月13日、大切な州議会選挙が三つもあるというのに、国民は真っ暗なトンネルの中にいる。一刻も早く出口の光が見えてこないと、票はメルケル氏のCDUからどんどん離れていくだろう。現在の最新アンケートの結果では、国民の8割が、ドイツ政府は難民問題を制御できていないと感じている。

今、メルケル首相にとって難民問題は、まさに自分自身を吹き飛ばすかもしれない"時限爆弾"になっている
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