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中国、「マネーサプライ」金融緩和基調続けて「軟着陸」狙う誤算

勝又壽良の経済時評 2016-03-12 05:37:26

エコノミック・ショート・ショート

中国政府は、「社会主義市場経済」というエセ市場経済が、本当の経済システムと考えている節がある。知らぬが仏とは言うものの、これでは余りにも気の毒に思う。市場経済の厳しさについて、身を以て知らなければ、今後の中国経済はさらに混乱の深みにはまり込む危険性が大きい。私にはそう思えるのだ。過剰設備の削減が、時間を掛けてゆっくりやっていれば、いずれ目的を達成すると見ている。その認識が極めて危険なのだ。

もっとも、李首相も口では、つぎのように「今年の経済は厳しい」と言っている。

「中国の国営ラジオによると、李克強首相は今年の中国経済について、政府が構造改革を進める中で一段と困難な状況に直面しているとの認識を示した。また、経済成長を妥当な範囲に維持する方針も示した。国家発展改革委員会(NDRC)は、今年の政府の経済成長率目標は6.5~7%としている。また複数の関係者によると、マネーサプライとインフレ率の見通しはこの目標に沿った水準になる見込み」(『ロイター』3月4日付)。

この「李首相発言」の中に、今年の経済状況を予測させる幾つかのヒントが得られる。

第1は、構造改革を進めるなかで一段と困難な状況に遭遇する。

これは、「過剰設備の廃棄を行うという意味である。『ロイター』(3月1日付)によると、「今後2~3年間で『ゾンビ企業』の雇用を500万~600万人削減する方針と、関係筋が明らかにした。ある関係筋は、余剰生産能力を抱える業種で500万人を削減するのは約20年ぶりの大規模な人員削減になると指摘した。別の関係筋は削減規模が600万人になるとの見方を示した」。

今後2~3年かけて、「ゾンビ企業」の雇用を500~600万人も減らす計画であるという。これは中国経済の宿痾である過剰債務=過剰設備=過剰生産を整理する一環だ。人員整理という話しを聞くと、共産主義社会でも首切りをするのか、と驚くかも知れない。過大な設備を抱える中国は、世界中へデフレを輸出している。自ら生産設備という、背丈を縮めなければならない状況にある。

ここで中国経済が、純粋な市場経済であったならばどうか、という疑問が湧くに違いない。先進国並みの市場経済であれば、行き過ぎた経済成長のスピードは、市場によって調整されるはずである。景気循環が成立するのだ。短期的(4年周期の在庫循環)調整が発生して、10年周期の設備投資循環が起こり、成長のスピード調整が自動的に行われる。過剰生産が、生産者物価の低落を招き、設備投資を調整するのだ。社会主義市場経済とは、市場機構による自動調整ブレーキを持たない、オモチャの経済機構である。

現実の中国経済は、計画経済という名の「無軌道経済」である。中国は、33の地方政府が独立の経済圏をつくっている。ここで、勝手に過剰な設備投資をやってきたのだ。その資金源は、農民から土地を取り上げて、工場用地や住宅団地にすべく売り払った資金が充当された。土地国有化という「打ち出の小槌」を利用して、土地が錬金術に使われてきた。経済の「無政府状態」が、中国の30年に及ぶ平均年率9.8%成長を実現させた原動力である。そして現在は、過去の矛盾が一斉に噴き出している。手が着けられないほどの混乱の極にある。まさに、自業自得なのだ。

第2は、今年のマネーサプライ(M2)が、ほぼ昨年並みの13%プラス程度になりそうであることだ。これは何を意味するかである。昨年末の名目経済成長率は、前年比で4.25%まで低下している。ここまで実態経済が冷えてきている中で、M2の増加率が13%増であるのは、通貨供給が「追い貸し」という経済成長に寄与しない分野へ流れていくことなのだ。

従来であれば、M2の増加は経済成長に寄与した。現在のように不良債権が増え続けている状況では、元利金を払えない「ゾンビ企業」の延命を助けているだけである。これによって、債務総額を増やし続け最後は、「破局」を迎えかねない事態になろう。中国共産党政権は、国民の選挙によって選ばれた政権ではない。唯一の正統性の裏付けは、高い経済成長率だけである。その経済成長率にはっきりと「赤信号」が出ている以上、何とかして成長率を持ちこたえたい、という無理を承知の政策に変わっている。さらなる矛盾の積み重ねが行われて、破局を早めるに違いない。

過剰な通貨供給は、「ゾンビ企業」を助ける一方で、新たな不動産投機に向かっている。住宅が金融商品化している現状が、いかい不健全であるかは言うまでもない。これほどまでに、中国社会が「投機好き」なのだ。一方、投機を引き起こすに十分な資金供給が行われているのだ。この現実にも、目を向けなければならない。中国は政府も国民も、能天気で同じ穴の狢(むじな)である。

『ロイター』(3月4日付)は、「上海不動産に新たなバブルの兆し、破裂の懸念広がる」と題する記事を掲載した。

この記事では、上海の不動産投機がまた始まったと、半ば呆れた感情を込めて報じている。昨年7月からの株価急落を受けて、投機資金が株式から不動産へ移動している。深センの不動産投機の影響を受けていることも確かだ。だが、中国経済の名目成長率が確実に低下しているだけに、上手く売り抜けて利益を上げられる保証はどこにもない。多分、売るに売れない事態に陥るであろう。

①「上海では不動産が熱狂的に買われており、新たなバブル形成の兆しが見える。このため2012年以降の中国の経済成長に打撃を与えた不動産市況の暴落が、また繰り返されるのではないかとの懸念が広がっている。中国不動産情報集団(CRIC)の調査によると、2月の上海の住宅価格は前月比で3.6%上昇した。1月の前年同月比が17.5%の上昇と、中国全体の7倍もの伸びを記録した後で、さらに値上がりした形だ。不動産市況の回復は、昨年夏までの上昇分の大半が帳消しになった株式市場に投資家が信頼を失ったことと軌を一にしている。上海で購入した投資用集合住宅物件の所有権登録に並んでいたある男性は、『(不動産)市場は再び狂乱状態になっているようだ。なぜだか分からないが、買うべき適切な時期なのだろう』と話した」。

「(不動産)市場は再び狂乱状態になっているようだ。なぜだか分からないが、買うべき適切な時期なのだろう」という辺りに、バブルの臭いが濃厚である。昨年の上海市の常住人口は21世紀に入って初めての減少である。上海経済が停滞していることの反映であって、いずれは住宅価格の値下がりに飛び火してくるに違いない。こういう客観的な分析をしないで、「群集心理」で動いていることに危険性を感じるのだ。

②「政府の住宅対策の狙いは大都市でなく、途中で放棄された開発物件が点在してバブル破裂の痛手が生々しい中小都市の不動産市場への支援だった。ところが、新規住宅投資のほとんどを占めるのは大都市部で、こうした動きにエコノミストは警鐘を鳴らしている。スタンダード・チャータードの中国エコノミスト、ラン・シェン氏は、『一級(都市)の住宅価格があまりにも急速に値上がりしているのは間違いない』と話す。中小都市の市場を支えたい政府の意図とは裏腹に、投機筋は自らの論理に従って大都市で投資を行っている。不動産仲介のセンタラインで東部地域の最高経営責任者(CEO)を務めるクレメント・リュック氏は、『(投機筋にとって)一級都市の方がより高度な環境が整っている。需要が多い一方、供給は制約されているので、投資家は値上がり余地があると考えている』と説明した」。

最近、中国の住宅市場が回復傾向にあるという記事が散見される。その実態は、一線都市(巨大都市)だけの限定的な動きである。二線都市以下では、膨大な住宅在庫を抱えている。前述の通り、上海市の常住人口が減少に向かっている現実からみれば、上海の不動産投機がいずれ大火傷を負う投機家集団を生み出すのであろう。中国の金融緩和は、ゾンビ企業の延命や、不動産投機のあだ花を咲かせて終わりになるはかない運命だ。
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