Entries

人工知能「アルファー碁」が韓国イ・セドル9段に3連勝した。人工知能(AI)の進化がもたらす社会変動を考える。

白髪頭でズバリと斬る -じじ放談- 2016年03月15日

はじめに

チェスの世界王者が人工知能(AI)との対戦に敗れてから約10年。いずれ囲碁でも人工知能(AI)に勝てなくなる時代がくるとは想定されていたが、その時期がかくも早く訪れるとは誰も予想していなかったであろう。プロ棋士だけでなく囲碁愛好者にも衝撃が走った。筆者もその一人である。

囲碁は19×19の碁盤(小宇宙)に、先手(黒)と後手(白)が交互に石を打ち合う単純なゲームで定まったルールもほとんどない。先人の指した棋譜、プロ棋士が悪戦苦闘してひねり出した指し手及び当該局面で最も合理的とみなされる定石や手筋を学習した上で戦に臨む。一手投じるたびに局面が変化するから、その都度、新たな局面に即応した「敵の出方と防衛・反撃策」(仮説)」を幾通りも考える。

棋士は無限に存在する指し手の中から、大局観、直感、経験知によって数十の仮説を立て、当該仮説の有効性を比較検討して最善手と思われる一手を指す。一流棋士は短時間で数千手先まで読むといわれているから「生きたコンピューター」だ。大局観と情報の評価と選別という作業は人間理性の特徴であり従来の人工知能(AI)では乗り超えることができない大きな壁であった。

2010年設立された英国Deep Mind社は、画像認識や音声認識等で応用されているDeep Learning(深層学習)という自己学習システムを活用して最後に残った人類の牙城である囲碁の攻略に乗り出した。コンピューターにトップ棋士の棋譜から約3000万手を記憶させ、さらに囲碁ソフト同士を戦わせて「新らしい指し手」を加え、囲碁ソフト「Alpha Go(アルファー碁)」を開発した。研究着手から数年、目下、発展途上にあるといってよいから、おそらく1年以内に弱点を克服し、世界最高レベルの棋士を圧倒することは間違いない。

第1:アルファー碁が第4戦で機能不全に陥った理由は何か?

人工知能(AI)「アルファー碁」はイ・セドル9段に三連勝、一度も劣勢に陥ることがなかった。完璧な打ち回しで圧勝した。世界の囲碁界に衝撃が走った。そして13日の第4戦でも「アルファー碁」は終盤までイ・セドル9段を圧倒、勝利を掌中に収めたと思われた。ところが、「アルファー碁」が突然乱れた。大学院生が突然発狂して知的能力を小学生レベルに低下させ、悪手を連発するようになった。

ゲーム途中で、突然、コンピューターが乱れた理由は(1)例えば、コンピューターがハッカー攻撃を受ける等してシステムの一部が停止する等の障害が発生したのか?あるいは(2)イ・セドル9段が放った「割り込み」の手筋と、アルファー碁の想定を超える局面を複雑化した迷路に立ち往生、判断能力が急激に低下した(迷子)のか、現段階では真相は不明である。Deep Mind社の研究開発陣は早速「アルファー碁が突如乱れた原因究明」に着手したはずだ。いずれであったのかは第5戦の最終戦(15日)で明らかになる。

棋士も人工知能(AI)も「最善手を求める」という点において異なる点はない。最善手を見つけることができない場合、棋士はやむを得ず「次善の策」や「三善の策」を選んで辛抱する。悩みに悩んだ挙句「最悪手」を指すこともある。人間はもともと不可知論者であるし、間違うこともあることを知っている。井山裕太6冠は対戦後の感想を問われ「いろいろ間違えましたが、現在の実力は発揮することができたと思います」と語っている。人間は間違える事を知っているし、最善手を発見できないからといって心神耗弱に陥ることはない。人間知性は「自らが不完全であると認識できる」ことにおいて人口知能(AI)と区別されるのではないか。想定外の事態に遭遇しても、態勢を立て直し、臨機応変に対処できる柔軟性を持っていることこそ人間の特性なのだ。

第2:「アルファー碁」を開発した英Deep Mind社の戦略

2014年、Deep Mind社は米グーグル社に4億ドルで買収された。現在、約200人の研究者が人工知能(AI)を研究している。彼らはディープラーニング技法(深層学習)を活用して画期的な囲碁ソフト「Alpha Go」(アルファー碁)を開発した。

プロ棋士が打った棋譜はすべて公開されているから、ソフト開発企業は無料で良質な情報を大量に入手できる。これを基礎資料としてディープラーニング(深層学習)を試行し、より効果的で効率的な囲碁ソフトを創出することができる。そして、韓国イ・セドル9段と対戦させディープラーニング(深層学習)の成果と弱点を検証できる。もとより囲碁ソフトは彼らの研究目的ではなく汎用研究を進めるための手段に過ぎない。

Deep Mind社のデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)は「人工知能(AI)は病気、医療、気候、エネルギー、データ、ゲームなど多くの問題の解決に役立つだろう」とし、「汎用目的を持った学習機械の開発が最終目標。キーワードは汎用と学習だ。1つのシステムが多様な状況でも使えるし、加工されていない入力資料から自らが学習する」と述べた。(以上はデミス・ハサビスCEOが韓国で行った講演の骨子。朝鮮日報電子版・日本語版より抜粋)

目下、ディープラーニング(深層学習)の最前線は「自動運転の開発」であるが、トヨタやGMなどの多国籍企業は深層学習機能の向上を目指して熾烈な開発競争を展開中だ。自動運転を可能にするためには、時々刻々変化する道路事情、他の通行車両との位置関係、標識や信号の認識、通行人や障害物の動態把握と安全運転操作を結合させる必要がある。極めて難易度の高い研究開発競争と言わねばならない。仮に、人工知能(AI)に問題があって自動運転中の自動車が事故を惹起した場合、莫大な損害賠償請求がなされ、天文学的制裁金が課せられ企業破産に追い込まれることは必至だ。一つの誤操作も許されない。「想定外の事態」と言って逃げることはできないのだ。

第3:道具としての人工知能(AI)

音声言語分野における人工知能(AI)と人型ロボットの開発は、接客、福祉及びサービス分野で実用を競い合う段階になった。音声言語だけではなく、ヒトの表情や感情を理解する人工知能の研究・開発も始まっている。福島第1原発の溶融した原子炉の調査・解体・廃棄を担うロボットの研究・開発も進んでいる。ヒト(研究者)・モノ(技術力)・カネ(資金力)が集まる所で花は咲く。

数十万年前、人類の祖先ホモ・サピエンスは「火」を生活の道具として活用することで他の哺乳動物と枝分かれした。「火」がホモ・サピエンスに絶大な力を与えた。ホモ・サピエンスは「火の力」を応用することで他の哺乳類を圧倒した。そして人間は燃焼効率の高い化石燃料を手に入れた。原子力・太陽光・地熱・風力・潮汐等を利用した発電を開発し、新たなエネルギーを獲得した。人間は自らの身体能力を高めて他の哺乳動物に対抗するのではなく、外界のエネルギー資源を道具として利用することで動物界の食物連鎖の頂点に君臨することができた。現在、人間は内なる自然である「知力」を何百万倍・何千万倍に拡張する人工知能(AI)の研究・開発に邁進している。人間は新たな敵(地球外生命体)を求めて宇宙に飛び出す。

50年ほど前、大型の電子計算機が開発され市販され算盤と競合するようになった。手書きからワープロへ、ワープロからパソコンへ、切符・タバコ・飲み物の小売店から自動販売機へ、手書きの速記録から音声認識パソコンへ云々、列挙したらきりがない。我々の生活は隅々まで「自動化」という名の人工知能(AI)に侵食されている。自動車は人工知能(AI)の塊となり、販売価格は上がることはあっても下がることはない。消費者は「便利さを求めてカネを払う」から、事業主も自動化競争に一層励む。人工知能(AI)の研究・開発に従事する者は「頭脳」を使い、大衆は「カネ」を使う。二極分化がさらに進む。

「知恵ある者」は持てる才能をさらに進化させ、「知恵なき者」は持てる才能をさらに退化させる。「富者」はますます裕福になり、「貧者」はますます困窮する。新世紀型階級対立が激化し、社会システムを支えることが困難になりガラガラポンの革命に至る。

第4:人工知能(AI)の進化と産業構造の変化

戦後70年。我が国の産業構造は農業国家から産業国家に転換した。農村から都市への人口の大移動が行われた。農民の子弟は労働者やサラリーマンになった。エネルギー政策が「石炭から石油へ」転換したことで、全国の炭鉱が閉山に追い込まれ炭鉱夫は転職を余儀なくされた。

会計事務が算盤から電子計算機へ、手書き文からワープロ・パソコンによる文書作成へ、速記録から自動録音文書の作成へ、証券マンが取り次いでいた株式売買からネットによる自動売買へ、洗濯板から自動洗濯機へ、対面販売から自動販売・通信販売へ、乗車切符の面談検札から自動検札へ、その他列挙したらきりがない。戦後の歴史は、技能・熟練労働者や専門職の職域が自動機械に侵食され置き換えられてきた時代であった。

大工・左官・瓦葺等の職人の姿も消え、住宅建築資材は工場で製造され現場では組み立てるだけ。自動車、建設機械、電気・家電等我が国を代表する企業は自動化・無人化が進んでいる。品質にむらのない製品を大量生産できる態勢づくりが進んでいる。国宝級の特別の技能を有する者を除いて、その他大勢の専門家や技術者は仕事を失った。「1億総中流」の中核をなしたサラリーマンと専門職が激減した。

「人工知能(AI)」の発展は従来の専門職・技能職を消失させ、いわゆる「中流層」を融解させたが新たな「中間層」が生まれた。「人工知能(AI)の研究・開発に従事する者、自動機械を創出する研究者と技術者、自動機械を操作する専門職、自動機械を補修する専門職が求められる時代になった。軍隊でいえば、戦闘機に乗って戦う航空兵が減り、無人偵察機や無人爆撃機を操作し、補修する専門職が増える。護衛艦や潜水艦の自動化が進むと、乗組員の仕事も変わる。衛星やレーダーによる情報収集、分析、対応指針等、戦争の自動化が進む。軍隊は「人工知能(AI)を操作する専門職集団」となる。専門的知識を有する人間が採用され、軍官学校は高度な専門知識を有する人材の養成所となる。

まとめ

「Alpha Go(アルファー碁)」が囲碁界の最高実力者イ・セドル9段に圧勝した。これは、人工知能(AI)が時々刻々変化する局面を判断できる能力と「大局観」を獲得したことを意味する。重要であることと、それほどでもないことを識別し取捨選択できることを意味する。アルファー碁は「人工知能(AI)が人間の頭脳労働の大部分を代替し、乗り超えることができることを実証した。

研究・開発の99.99%は試行錯誤の連続であるといわれているが、仮に人工知能(AI)に「研究達成目標を指示し、関連情報を提供して深層学習を促すならば、研究・開発期間の大幅短縮を実現できる。アルファー碁はプロ棋士も想定できない「新手」を指した。これは、研究者や技術者が見落としてきた「新たな研究と開発の地平線」を人工知能(AI)が切り開く可能性があることを示唆している。

人工知能(AI)の発展が科学技術の飛躍的発展をもたらし、人類にバラ色の未来を約束するのか?、それとも「人工知能(AI)不拡散条約」が締結され、特定の国・企業が排他的独占権を主張するのか?、現段階では何ともいえない。

人工知能(AI)がさらに発展し、生活関連機器や軍事関連機器の自動化が加速されたとき、人間は肉体労働だけでなく知的労働からも解放(又は排除)される。結果、人間の身体能力や知的能力は一部のスーパーマンを除いて劣化する。人間の身体能力・知的能力の退化を防ぐための健康維持・健康管理企業と知的訓練企業が求められる時代となる。「得るものがあれば失うものもある」というのが大自然の摂理だ。

「少子高齢化・人口減少」に脅え、外国人1000万人の移入を唱える時代ではない。少子高齢化と人口減少の先進国日本は人工知能(AI)と製造技術を融合した自動化社会のリーダーとなる。知恵と、資金と、製造技術を併せ持つ国は我が国をおいて他にない。最近、軍事装備品や原発廃炉等で日米・日米仏・日米英の共同研究が始まっているのはその兆だ。

ホモ・サピエンスは「火を道具として利用できた唯一の哺乳類動物」であった。ホモ・サピエンスは「火」を手に入れることで、類人猿から枝分かれすることができた。「人工知能(AI)」を獲得した人類は今、「自然的人間に留まりたいと願う種」と「人造的人間を志向する種」に分岐し始めたのであろうか?

「火」を手に入れ類人猿から枝分かれしたホモ・サピエンスが「火」を手放すことがなかったように、「人工知能(AI)を手に入れた人類も又人工知能(AI)を手放すことはない。禁断の実を食べた者は引き返すことができない宿命(さだめ)なのだ。
白髪爺 at 13:38
スポンサーサイト
  • コメント : -
  • トラックバック : -

Appendix

最近の記事