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新興大国の勃興と斜陽化する覇権国家が対峙する帝国主義時代の地政学

白髪頭でズバリと斬る -じじ放談- 2016年08月23日

はじめに

地球儀を俯瞰する地理的戦略思想家の先駆けとされる英国のハルフォード・マッキンダー(1861-1947)は、七つの海の制海権と世界最大の植民地を領有した大英帝国が絶頂期を過ぎ斜陽化する時代に活躍した。

19世紀中葉以降の世界情勢を概観すると、プロイセン国王を盟主とするドイツ帝国の誕生(1871-1918)、ロシアの中央アジア侵攻(1868)、同シベリア鉄道着工、同満州(中国東北部)に対する鉄道敷設権入手(1896)と鉄道二路線完成(-1903)、日清戦争(1894)、日英同盟(1902)、日露戦争(1904)、辛亥革命(1911)、米国によるハワイ王国併合・米西戦争に勝利した米国がグアム、フィリピン、バハマ諸島を植民地化(1898)など、帝国主義列強による「勢力圏争奪戦」が激化していた。

ハルフォード・マッキンダーは「西欧におけるドイツ帝国の膨張、中央アジアと東アジアにおける帝政ロシアの南下、太平洋の制海権を掌握した米国、そして東アジアの巨龍「清」の大海軍を壊滅させた大日本帝国海軍。これら新興大国を抑え込む力は斜陽の大英帝国にはなかったから、大英帝国が覇権国家の特権を維持し、又は大英帝国存亡の危機を乗り越えるためには、シーパワー(日・米・仏)との連携を強化しランドパワー(独・露)に対抗せざるを得ない」と考えた。日英同盟を締結してロシアの南下を食い止め、第一次・第二次世界大戦ではランドパワー(独・露)の分断工作を仕掛けて成功、大英帝国の滅亡をかろうじて防ぐことができた。

21世紀、衰退しつつある覇権国家は米国、台頭する列強は「独(欧)・露・中・日・印」の5か国である。英仏両国にはシーパワー又はランドパワーを率いる力はないから、米国に追随するか(英)、又はドイツと提携するか(仏)で急場をしのぐほかはない。

第1:2016年の地政学

マッキンダーは帝政ロシアを「中軸地帯(ハートランド)」とみなし、大陸欧州(ドイツ帝国等)を「内側の三日月地帯」と位置づけ、海洋(海軍)国家たる英国を「外側の三日月地帯」に分類した。英国はロシアや大陸欧州と提携するのではなく海洋国家(日米等)との同盟を進めるべきとした。先般、英国が国民投票によって「EUからの離脱」を決めた背景は(1)ヒト・モノ・カネの自由化是か非かを問う(グローバリズムか?ナショナリズムか?)ことが主要な争点とされから、英国の伝統たるべき「大陸欧州への違和感」が国民投票に何らかの影響を与えたことは間違いない。

英国民は欧州連合(EU)に残留し、その一員としての役割を担い続ける心理的負担を耐え忍ぶよりも、誰に気兼ねすることなく、自己の意思に従って、自由に行動できる道を選んだ。そもそも、法律の条文で「権利と義務」を細かく規定され、行動に枠をはめられて生きるのはアングロサクソンの体質に合わない。情勢の変化に応じて臨機応変・融通無碍に生きるところに人生の醍醐味があるのであって、「杓子定規で面白みがない生き方はドイツ人に任せておけばよい」と考える。ドイツ観念論とイギリス経験論は永遠に交わることのない異質な文明なのだ。

第2:欧州連合(EU)にとって「最大の脅威」はロシア

欧州連合(EU)とロシアの周辺国にとっては、昔も今も、「最大の脅威」はロシアであった。ロシアの領土拡張欲求は半端ではなく、東は太平洋、西はバルト海、北は北極海、南は黒海(カスピ海)に至る広大な国土を領有する。ソ連邦時代は東欧や南カフカス、中央アジアまで領土・勢力圏を拡大した。この民族的性向は時代を超え、体制を超えて継承されている。

ソ連邦解体によって国土の相当部分を失ったロシア、欧州連合(EU)の東方拡大によって国土防衛戦に追い込まれたロシアは「窮鼠猫を噛む」の例え通り反転攻勢に打って出た。まず、ジョージア(グルジア)に戦争を仕掛けて一部を奪取、ウクライナの内戦の乗じてクリミア半島を併合、目下、ウクライナの内戦に介入、親欧米政権を打倒し親露政権を樹立するまで耐久レースを続ける。

ロシアは寄せては返す波の如く耐久レースを続けるほか、欧米とトルコ(エルドアン大統領)の関係悪化を奇貨としてトルコ取り込みを画策中。イラン・イラク・シリア・トルコをロシアの同盟国・友好国に囲い込むことができれば、中東全域から欧米の影響力を排除できる。さらにロシアは欧州連合(EU)の民族主義派を支援して内部対立を煽り、EU内部から切り崩す戦略を打ち出した。英国が「EUからの離脱」を決めたのはロシアにとっては想定外であったが、「幸運の女神がやってきた」とニンマリしているはずだ。

8月23日、独仏伊3か国首脳がフランスの空母で会談。英国が離脱した後のEUの在り方について協議したとされるが、米英やイスラエルの諜報機関による盗聴を防止する必要があったのだろう。ユダヤ・アングロサクソン同盟に知られたくない機密事項(「対米英」「対ロシア」)が話し合われたと考えてよい。英国が抜けた大陸欧州(EU)は自立に向けて歩き始めた。

東アジアと中国(中共)の周辺国にとっては、中国(中共)が最大の脅威である事実は昔も今も変わらない。中国(中共)はASEAN等周辺国家のヨコの連携を遮断し、各個撃破(二国間交渉)して従属させ、領土・領海・領空を拡大すべく着々と布石を打ち、既成事実を積み重ねてきた。周辺国は経済的恩恵(アメ)と恫喝(ムチ)で脅迫され身動きがとれない。中国(中共)に正面切って文句が言え、防衛力増強を含む対抗措置をとっているのは日本、ベトナム、インド位のもので、韓国を初めその他大勢は泣き寝入りを強いられている。

つまり、欧州連合にとって最大の懸念材料(仮想敵国)はロシアであって中国(中共)ではない。したがって、欧州各国が中国(中共)との経済関係を深め「対露包囲網」の結成を推進しても何の不思議もないし、遠交近攻に適った合理的な戦略といえる。

第3:東アジア・南アジアにとって「最大の脅威」は中共(中国)

東アジア及び南アジアにとって最大の懸念材料は「武力を振り回す中共」であってロシアではない。インドやベトナムが日米に接近しながら同時にロシアとの「準軍事同盟関係」を維持しているのも、そして、我が国がフィリピン、ベトナム、インドとの軍事交流を推進し、日露平和条約締結に向けて注力しているのも、「中露蜜月」に楔を打ち込み、離間工作を仕掛けていると考えてよい。傍若無人で国際法を無視し、武力を振り回して恫喝する「中共(中国)」は東アジア、南アジア、中央アジアにおける「最大の脅威」となっている。周辺国が「対中包囲網」の結成に取り組むのも自然の成り行きで、遠交近攻に適った合理的な判断といえる。

一方、中共(中国)が韓国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、フィリピン、インドネシア等中国への経済依存度が高い周辺国を懐柔し、又は恫喝して中華冊封体制に組入れたいと画策しているのも、合従連衡策の現代版であって不思議なことは一つもない。1対1で各個撃破する計略だ。

第4:米国の仮想敵国はロシア、中共(中国)は友好国待遇?

米国(共和党・民主党)のエスタブリッシュメントにとって「最大の脅威」はロシアであって中共(中国)ではないことは誰でも知っている。米国のエスタブリッシュメントは中共(中国)を「倒すべき敵」と考えたことは一度もない。米中は利益を分け合い、手を携え前に進む仲間と考えている。米太平洋艦隊は2015年からハワイ沖で実施している「自由と民主主義の価値観を共有する海軍の合同軍事演習(リムパック)」に、中共海軍を招待した。これが米中関係の本質なのだ。

米国は「敵と味方を混同した中東政策」の失敗によってイスラエル、トルコ、サウジアラビア等主要同盟国の信頼を失った。同じく、米国は東アジア・南アジアにおいても、主要同盟国・友好国の信頼を失うことになる。目下、中東全域がロシア勢力圏に組み込まれる様相を呈しているが、東アジア・南アジアにおいても、近未来、同盟国・友好国の信頼を失うであろう米国に代わってロシアが「対中包囲網」の結成を主導するのではなかろうか。ロシアは虎視眈々、密かに布石を打っていることであろう。

目下、プーチンのロシアは欧米(とりわけ米英)の「対露経済制裁・対露包囲網」の圧力を緩和すべく中露接近を図っているが、ロシアにとって欧州戦線と中東戦線に一定の目処が立てば、そして「対露経済制裁」を緩和させることができれば、中露関係を是正し本格的に東アジア戦略に取り組む。

第5:ユダヤ・アングロサクソン同盟の覇権はまもなく終わる

「EUからの離脱」によって、欧州における英国の政治的・経済的・外交的影響力は急速に低下。英国が抜けた欧州連合(独仏)は米英とロシアの中間にあって独自外交に踏み出す。NATOの形骸化はさらに進む。

かって米国は軍事力と経済力で世界に屹立していたが今や見る影もないほど零落した。比較優位の経済力と軍事力だけでは7つの海の制海権を維持することは不可能で、かつ覇権国家としての特権(通貨発行特権・ルール制定権)を保持することは困難だ。米国の頼るべき同盟国が欧州の孤児英国と我が国だけというのも自然の摂理とはいえ哀しすぎる。

日米軍事同盟は「保護・被保護」「矛・盾」の役割分担から、「協同防衛・協同反撃」に変化しつつある。米軍との武器の互換性を勘案すると「専守防衛用」から「反撃防衛用」へ、そして「先制攻撃用」へと重心を移さざるを得ない。何事も「事実先行」であって法律改正は事後承認の手続きに過ぎない。敵国の核ミサイルが10分後に到達するというのに、憲法改正論議にうつつを抜かしている場合ではない。国家・国民が生き残るために必要であれば国家はいつでも超法規的措置をとることができる(自然権)と解すべきだ。

まとめ

中共(中国)は「米国に代わって覇権国家となり、中国が世界を思いどおりに動かしたい」と考え着々と布石を打っているのに対し、米国のエスタブリッシュメント(民主党・共和党)の多くが、不可解なことに「中国との共存共栄」を唱えている。中国共産党が米国の政界・官界にばら撒いているカネがその威力を発揮しているのだろう。私益優先の米国と中共は「地獄の沙汰もカネ次第」というカネ万能社会だ。彼らには「国益」という観念はない、ただ「私益又は一族郎党益」があるだけ

8月21日付け日本経済新聞は、クリントン米大統領候補の有力な外交参謀の一人ジェームス・スタヴリディス(NATO元最高指揮官)の国際情勢に対する認識と米国の安全保障戦略についての見解を報じた。この中で彼は

1.プーチン大統領の訪日について

「対話」はいつの世でも良いものだ。技術的(国際法上)、まだ戦争状態にあるともいえる日本とロシアの関係について、議論を続けることもよい。北方領土問題について話し合いを持つことも意味がある。この問題で米国は100%日本の側にいる。

以上は米国の真意ではない。鳩山一郎内閣が日ソ平和条約の締結交渉に注力し妥結寸前に至った段階で、米国の強力な圧力によって頓挫させられたことがあった。橋本龍太郎総理・森喜朗総理も日露交渉に尽力したがいずれも米国の頑強な反対に遭遇し潰されたといわれている。そして、安倍総理が米国の反対を押し切ってソチ五輪に参列し、さらに日露経済協力の具体化とプーチン大統領訪日を潰すべく画策しているのも米国なのだ。米ソ冷戦時代であればともかく、冷戦が終了した1991年以降も、米国歴代政権が「日露接近」を喜ばず、執拗な妨害工作を仕掛けている。これが日露関係・日朝関係が進展しない冷厳な現実なのだ。我が国にとって唯一の同盟国(米)が我が国の自立外交を妨げている元凶なのだ

2.一方、スタヴリデスは「安倍首相はとても洗練された政治家であり」と持ち上げつつ、「彼とプーチン氏の対話が我々を間違った方向に導くものではないと思う」と警戒心を隠さない。日米同盟の土台を掘り崩すことは許さないと脅しをかけた。さらに「プーチン氏が抱えている数々の問題を鑑みれば(訪日によって)多くの進展があるという見方には懐疑的にならざるを得ない」と牽制する。要するに、「ロシアに対する経済制裁を骨抜きにするような取引はするな」と恫喝しているのだ。

なぜ?米国はロシアと同じく「力による現状変更」を行っている中共(中国)に対しては無罪放免して最恵国待遇扱いを維持しながら、さらに中国との経済的・金融的連携を深めている英独には何らの注文をつけないのに、日露平和条約締結に向けた日露関係の改善を妨害するとはいかなる了見なのか?いかなる正当な理由があるのか?我が国を永遠に「米国の忠犬ポチ」として繋ぎとめ、使い捨てるつもりなのか?

3.独メルケル首相について

スタヴリデスは「メルケル首相はクリミア問題に関する対露政策については厳しい姿勢を貫くと思う。彼女こそ、この制裁において欧州連合を団結させている要だ」と賛美してみせる。しかし、独仏露3か国は談合して、米英の頭越しにウクライナ休戦を締結したことがある。さらに、CIAがメルケル首相個人の携帯電話を盗聴し米独の政治問題に発展したこともあった。米独関係は「疑心暗鬼」の微妙な関係であって、形式上は同盟関係にあるが、内実は「寝首を掻くかもしれない」と恐れている間柄なのだ。米国にとってドイツは「欧州最大の仮想敵国」であり、米国にとって日本は「アジア最大の仮想敵国」と位置づけられているのだ。

戦後72年、冷戦終了後25年、現在でも、米国は我が国とドイツに世界最大規模の兵力を駐留させている。しかし、日米関係の力関係や米独関係の力関係が変化すれば、自ずから駐留米軍の役割も変質する。駐留米軍は監督者から同盟者へ、そしてトランプが主張する米軍の駐留経費の全額負担を受け入れたならば、駐留米軍は「傭兵」となる。

スタヴリディスは「独露による電撃的な握手はあり得ない。ドイツの友人達はこの問題について、自らの立場を堅持する術にたけている」と述べた。

現実主義者独メルケル首相は米国との正面衝突を巧みに避けながら、かつ周辺国の警戒心を煽らないよう留意して「米国の要請」を受け入れる方式でドイツ軍の増強を行っている。先般は米国の要請を受けてドイツ軍10万人の増員を行うと表明。我が国も「米国の要請」を待って、安全保障体制を整備し、ミサイル防衛網を構築し、独自の情報収拾態勢を整備する。

戦争に負けた国が名実ともに主権を回復するのは容易ではない。臥薪嘗胆して力を蓄え、好機が到来するのを待たねばならない。高みに達するには、石段を一段づつ登るほかはないと諦観し、一足飛びに何十段も飛び越えるが如き「一か八か」の夢に賭けるべきではない。人生は賭博ではない。

「待てば海路の日和あり」という。その内、霧が晴れ、風がおさまることもある。ボス猿の任期は「2期6年」と決まっている訳ではないが「体力次第で任期が決まる」というのが大自然の摂理だろう。
白髪爺 at 20:51
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