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米中戦争は起こりうる その2どう戦いが始まるのか(2~4)

Japan In-depth    2016/8/27  古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカの大手研究機関「ランド研究所」の「中国との戦争」と題する報告書は戦争への契機として以下のようなケースをあげていた。つまり米中戦争はどのような原因で始まりうるのかという想定である。

(1)東シナ海の尖閣諸島などをめぐる日中両国の軍事摩擦。
(2)南シナ海での中国のフィリピンやベトナムへの軍事威圧。
(3)北朝鮮の政権崩壊による米中双方の朝鮮半島軍事介入。
(4)中国の台湾に対する軍事的な攻撃あるいは威嚇。
(5)排他的経済水域(EEZ)やその上空での艦艇、航空機
の事故的な被害。

以上のような小規模な軍事的摩擦や衝突が米中両国の戦争へとエスカレートしうるというのだった。

日本にとっては米中戦争のその発端の(1)が尖閣諸島をめぐる衝突だというのはショッキングである。尖閣事態は米中戦争の危機をもはらんでいるというのだ。

尖閣諸島に対しては中国は明らかに非平和的、非外交的な解決の道を走り出した。海軍の艦艇や空軍の戦闘機を尖閣近くへ送り、実際の尖閣の日本領海へは先兵として中国海警の武装艦艇を侵入させてくる。日本側がまったく無抵抗とわかれば堂々と尖閣諸島へと上陸してくるだろう。尖閣は中国領土だと宣言しているからだ。

この状況に対しアメリカはもし中国軍が尖閣を攻撃すれば、日本を支援して共同防衛にあたるという方針を示唆している。アメリカの意図にかかわらず、中国と日本が軍事衝突をする危険はすでに目前にあるわけだ。こんな事態に米軍が介入すれば米中全面戦争にエスカレートする可能性も十二分にあることとなる。

(2)の南シナ海では米中の対立はすでに明白である。中国は国際仲裁裁判所の裁定を無視して、新たな人工島などで軍事拡張を続けている。フィリピンやベトナムに対しては武力行使も辞せずという強硬な構えを公然ととる。オバマ政権は南シナ海での中国との対決をなお避けているようだが、フィリピンはアメリカの同盟国だ。そのフィリピンが中国から軍事の威嚇や攻撃を公然と受けた場合、アメリカは座視するわけにはいかないだろう。ここにも米中軍事衝突の土壌が存在するわけだ。

(3)の北朝鮮の金正恩政権の崩壊というシナリオが指摘するのは、米軍が韓国軍とともに朝鮮半島の平和維持や統一という目的を掲げて、北朝鮮領内に進撃する可能性である。

だがそんな事態に中国が動かないはずがない。中国軍も中朝国境を越えて南下するだろう。その場合には米中間にきちんとした不戦の合意はまずないだろう。最初から北朝鮮、あるいは朝鮮半島全体の米中両国の戦略が相互の合意を得ていれば、トラブルは少ない。だがそうでなければ米中両軍が北朝鮮領内で戦闘を始める危険がまちがいなく高くなる。

(4)は台湾をめぐる米中両国の年来の対立から起きうる戦争の可能性である。中国は台湾を自国領土とみなし、台湾の独立への動きは武力を使っても阻むと宣言している。アメリカはその宣言に反対し、「台湾関係法」で台湾の安全保障へのアメリカの関与をうたっている。この点に米中衝突の可能性は長年、常に存在してきた。中国側が台湾有事での米側からのパワー・プロジェクション(兵力遠隔投入)を恐れて、新鋭の弾道ミサイルなどによる「接近阻止」や「領域否定」の戦力強化に努めてきたことも周知の事実なのだ。

(5)は南シナ海をも含めての東アジア全域での偶発的な衝突の可能性である。領海ではないが沿岸国の特権が認められる排他的経済水域(EEZ)は国連海洋法では他国の軍事艦艇の通航も認められる。だが中国だけは国内法で自国EEZの外国の軍艦の航行は中国側の事前の許可を必要とするとしている。アメリカなどの諸国は実際には中国のこの主張を無視しているが、紛争の素地は常に存在するわけだ。また公海でもその上空でも米空両国の軍艦や軍用機が異常接近し、あわや事故という事態も頻繁に起きている。そんな事態が米中間の戦争につながる危険があるというわけだ。

ランド研究所の報告書は以上のようなケースを米中戦争勃発の契機としてあげるのだった。

米中戦争は起こりうる その3どんな戦いとなるのか
Japan In-depth / 2016年8月28日 18時0分  古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

ランド研究所の報告書「中国との戦争」はもし米中戦争が起きた場合、その形態や地域などについて次のように予測していた。

・米中戦争は非核の通常兵器での戦闘となる。

(アメリカも中国もともに核兵器の保有国だが、予測される米中戦争ではいずれの国も核兵器は使わず、通常兵器だけでの戦闘になる。アメリカは通常兵器での戦闘がきわめて激しくなっても、勝利への見通しと、自国の大被害への懸念から、核兵器はあくまで不使用で進む。中国ももしアメリカに対して核兵器を使えば、核での大量報復を受け、国家壊滅という事態をも招くとみて、核不使用のままで進むと予測される)

・戦闘は主として水上艦艇、潜水艦、航空機、ミサイル、さらに宇宙とサイバーのハイテクの戦いとなる。

(米中両国とも東アジアにすでに強大な軍事力を配備しており、戦争の契機からみても水上、海中、そして空中での戦闘となる見通しが強い。両国ともハイテクを動員し、各種ミサイルのほかにドローン(無人機)も多用される。宇宙利用も多く、とくに中国軍は米軍の依存する人工偵察衛星などの宇宙システムの破壊に力を入れる。両国ともサイバー攻撃を拡大する。米中両軍の地上戦闘は朝鮮半島有事以外ではほとんど起きないだろう)

・戦闘は東アジアで始まり、東アジアで続くが、西太平洋の広大な地域も戦場となる。

(米中両軍の戦闘は日本の尖閣、さらには東シナ海、南シナ海、台湾海峡、朝鮮半島などで起きるとみられるが、西太平洋のより広い水域、空域に広がることも予測される。ただし中国がアメリカ本土への攻撃に出る可能性は低い。そのための遠距離攻撃の能力の不十分さやその結果としての効用の限度がその理由となる。逆にアメリカが中国本土に対しては激しい攻撃を加える見通しが強い。しかし米軍が中国本土の地上戦闘を展開することはまずない) 

同報告書は米中戦争の形態を以上のように予測したうえで、さらにその戦闘の期間、規模、程度などについて次のように分類していた。

(1)短期で激烈
(2)長期で激烈
(3)短期で軽微
(4)長期で軽微

同報告書は以上の4つのパターンのうち「短期」は数日から数週間、「長期」は1年以上と推定し、ほとんどの場合は米軍の勝利や優勢に終わると予測していた。しかし米中戦争の時期が2025年までに向けて先に延びれば延びるほど、中国軍の戦力が相対的に強くなって、「長期」戦では両軍がいずれも決定的な勝利を得られず、膠着状態になる可能性が高くなる、とも指摘していた。中国軍は米軍の遠隔地からの増援部隊の接近を阻むための「A2/AD」(Anti-Access/Area Denial:接近阻止・領域否定)の戦闘能力を着実に強化していくので、米軍の完全勝利は年月が経てば経つほど、難しくなるというわけだ。

同報告書はさらに4つの戦争パターンのそれぞれについて経済や政治など非軍事面での両国の損失を推定し、戦争の帰趨への影響を予測していた。非軍事面でも中国の方がアメリカよりも消耗や損失がずっと多くなるというのが予測の基調だった。


米中戦争は起こりうる その4 日本も中国に攻撃される
Japan In-depth / 2016年8月29日 19時38分  古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

ランド研究所の報告書「中国との戦争」でとくに注視されるのは、米中戦争の発生でも進行でも、日本が非常に重要な役割を果たすという点である。同報告書は米中戦争の帰趨に関しても日本の動きは「決定的に重要」だという表現までを使っていた。

すでに述べてきたように、米中戦争の勃発の契機として第一にあげられたシナリオは尖閣諸島をめぐる中国と日本との衝突だった。日本への中国の軍事攻勢が米中戦争の第一の原因になりうるという分析なのだ。

その日本がらみの「勃発」としては同報告書は尖閣諸島をめぐり対立する日中両国の前線の部隊が偶発、あるいは事故のような状態で衝突する可能性を指摘していた。中国が挑戦的な実力行使の領海侵犯を続けるからこそ起きる意図せぬ衝突である。事故が本格的な戦争へとエスカレートする実例は歴史が証明している。そのうえで同報告書は中国側の単に事故に留まらない「誤算」をも契機の可能性としてあげていた。

以下の骨子の記述だった。

・中国は尖閣諸島での日本との対立でアメリカによる日米安保条約に基づく日本防衛、尖閣防衛の誓約を過小評価し、中国軍が尖閣を攻撃しても米軍は介入してこないと誤算をして軍事行動に出る可能性がある。

周知のようにオバマ政権は「尖閣諸島も日米安保条約の適用範囲に入る」と明言している。ふつうに解釈すれば、尖閣諸島への中国などからの武力攻撃があれば、アメリカは日米安保条約第5条に基づき、日本とともに「共通の危険に対処」するとの誓約を実行するという意味である。だがオバマ政権はそれ以上には、尖閣諸島への武力攻撃があれば、日本とともに「尖閣諸島を防衛する」とは言明しない。曖昧な余地を残すのだ。

だからもしかすると、アメリカは尖閣諸島への武力攻撃だけで中国との戦争には踏み切らないかもしれない。現にオバマ政権周辺には「尖閣のような無人島のために中国との全面戦争の危険を冒すようなことは避けるべきだ」という意見もある。そうした状況を中国が眺めて、アメリカは尖閣防衛のために中国との戦争に突入するようなことはしないだろうと、判断してもおかしくはない。

中国のこうした考え方はふつうにみれば、誤算である。だがもしかすると、誤算ではないかもしれない。しかし同報告書はアメリカと中国がいったん戦争となれば、日本がどんな態度をとろうとも、ほぼ冒頭から戦争の当事国となってしまう見通しも高い、と指摘していた。なぜならアメリカと戦端を開いた中国は冒頭からほぼ自動的に日本領土へも攻撃をかける可能性が高いからだという。

 そのあたりを報告書は次のように述べていた。

・中国はアメリカとの戦争になれば、その始めから日本国内の米軍基地を攻撃する確率が高い。
・中国は日本がアメリカ側について参戦するとみて、日本領内の自衛隊基地をも先制攻撃する可能性も高い。
・もし中国が日本との戦争を避けるために在日米軍基地の攻撃を思い留まる場合、戦闘面での悪影響は重大となる。
・中国にとって年来の潜在敵性国家であり、集団的自衛権の一部行使を容認する今後の日本は、たとえ中国側から先に攻撃されなくても、アメリカの同盟国として対中戦争に踏み切る可能性が高いと、中国側が予測する。
・北朝鮮が中国の「同盟国」として米軍や在日米軍基地にミサイル攻撃を加える可能性があり、その場合にも日本はアメリカの味方としての立場を明確にする。

このように同報告書は米中戦争では日本自身が求める、求めないにかかわらず、最初からアメリカの同盟国として戦うことになるという見通しが強いと指摘するのだった。
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