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三菱重工がまさかのトップ転落…日本の「防衛産業」に異変アリ!

現代ビジネス  2016.10.07 井上 久男

国際競争でも敗北続き…

「一民間企業の経営ミス」では済まされない

日本の防衛産業で異変が起こっている。

その一つが、昨年秋に実施された2020年に竣工予定の新型イージス艦(1番艦)の入札で本命視されていた三菱重工業がジャパンマリンユナイテッド(JMU)に敗れたのに続き、今夏に行われた2番艦(21年竣工予定)の入札でも同様に三菱重工がJMUに負けたことだ。

現在6隻就役しているイージス艦のうち5隻を三菱重工が建造している。残り1隻はIHI(石川島播磨重工業)製。JMUとは、IHI(石川島播磨重工業)、住友重機械工業、日立造船、旧日本鋼管の造船部門が統合して発足した造船会社である。

日本の防衛産業で圧倒的な存在感を誇ってきた三菱重工の凋落は、「異変」の大きな要因だ。

2015年度の防衛装備庁の「中央調達実績額」によると、三菱重工は、川崎重工に追い抜かれて2位に転落した。ちなみに川崎重工に対する調達額は2,778億円、三菱重工は1,998億円だった。防衛産業の関係者はこうもらす。

「これまでに三菱重工がトップから転落したという記憶がない。おそらく初めてのことだろう」

三菱重工はこれまで自社のプライドをかけて、コストを無視してでもイージス艦の受注を獲得してきたとされるが、経営状況がそれを許さなくなっている。

「これまでは日本の防衛産業を牽引してきたとの自負から赤字覚悟で受注してきたのを、今の経営陣が絶対に認めなくなったからではないか」(前出・関係者)

三菱重工の造船部門は火の車だ。外資から豪華客船を約1,000億円で受注したが、仕様変更を度々繰り返して基本設計に見込み以上の日数がかかったうえ、製造現場で納入直前の今年1月に不審火が3回連続で発生したため、納入が遅れた。

この客船事業では受注額約1,000億円に対して、14年3月期から16年3月期までに逐次的に特別損失を計上し、その総額は2,374億円に達した。これを受けて三菱重工では16年4月、社長直轄の事業リスク統括部を新設したほどだ。

さらに16年8月には、三菱重工はこれまで他社と提携していなかった造船事業の方針を転換、中堅の3社、今治造船、大島造船所、名村造船所と商船事業で提携する方針を発表した。中堅3社のコスト削減などのノウハウを取り込みたい考えだ。

技術力の低下も目を覆うばかりで、13年には三菱重工建造のコンテナ船がインド洋を航行中に就航からわずか5年しか経過していないのに、世界初の素材を使ったとされる船体が二つに割れて沈没する事故も起きた。

造船以外でも苦境は続く。約40年ぶりの日本独自の旅客機生産となる「MRJ(三菱リージョナルジェット)」は昨年、開発から7年を経て初飛行に成功したものの、当初計画から4年も遅れた。設計変更を繰り返しているため、18年半ばとされた納入時期もさらに延期される見通しだ。これによって受注キャンセルというリスクも浮上している。

遅延が繰り返される主な理由の一つは、部品などを仕入れる欧米の民間企業とうまく交渉できなかったため、とされる。

MRJの開発には、三菱重工の年間営業利益額に匹敵する3,000億円を超える資金が投入された。納入時期が遅れれば売上の回収も遅れ、キャッシュフローが苦しくなる。

三菱重工の凋落は、「一民間企業の経営ミス」では済まされない。三菱は戦前から日本の軍需・国防に貢献してきた企業だ。今後の日本の防衛戦略にも影響しかねない。

「三菱は国家なり」――。これは三菱財閥の祖、岩崎弥太郎が政商として国家に深く関わり、国家の発展に寄与したイメージから語られる言葉だ。

戦前に「ゼロ戦」や「戦艦武蔵」を造り、戦後もイージス艦、H2Aロケットなどを生産、つねに国家プロジェクトに貢献してきた。日米のミサイル防衛計画にも深く関与しているとされる。三菱重工の経営が悪化すれば国家プロジェクトの進捗にも大きく影響するだろう。

防衛産業の基盤強化も安全保障の一部

三菱重工に限らず、IHI、川崎重工といった防衛産業を支える企業の経営も楽ではない。一般論として、経営が苦境に陥ると、設計図面など知的財産を切り売りする傾向が出る。重工メーカーの経営が悪化すれば、日本の軍需情報が海外に漏れるリスクは高まる。

かつてIHIと川崎重工が一層の合理化を進めるために、合併計画を進めたが、それをキャッチした防衛省が計画を潰した経緯もある。

その理由は、川崎重工が中国の造船メーカーに技術供与しており、経営統合によってイージス艦「ちょうかい」を建造したIHIの設計情報が中国に漏洩するリスクがあると判断したからである。

安保法制の改正、武器輸出の拡大など、安倍政権は国会での数の力を背景に安全保障政策の変更を強硬に推し進めてきた面がある。しかし、日本の安全保障を支える自衛隊の装備を造る防衛産業の基盤をどう維持していくか、といった視点が欠けている。少なくとも筆者はそう感じている。

日本は海洋国家であり、食糧・エネルギーの輸入でも船舶は欠かせない。船の開発・建造能力が衰えれば、軍事の安全保障ではなく、「食糧・資源安保」の問題にもかかわってくるだろう。

航空機でも多額の税金を投入しながら防衛産業の基盤づくりに繋がらない愚策を防衛省は犯した。「F4」の後継として自衛隊に配備される最新のステルス戦闘機「F35」。1機あたり181億円と「F15」に比べて5割増しの世界最高級の戦闘機を米国から42機調達する。その契約手法が屈辱的とも言えるのだ。

これまでは、上流の部品生産から下流の検査までを日本側が一貫して受け持つ、ライセンス生産によって米国の戦闘機を日本側が製造していた。三菱重工が「MRJ」に取り組む要素技術は米軍機をライセンス生産することで培われてきたとも言える。

しかし、今回の「F35」は、「FMS(対外有償軍事援助)」と呼ばれる契約で購入。この契約手法は、平たく言えば、契約上の価格や納期などの諸条件を米国の都合で変更でき、契約も一方的に解除できるというもの。しかも金は前払い。いわば「不平等条約」のうえに、技術やノウハウも得られない。

もちろん「F35」は最新技術なので、同盟国日本といえども米国がそれを出し渋ることは分からないではない。だが、巨額の税金を投じる割に、それが日本の防衛産業の発展につながらないことは課題だろう。

武器輸出の拡大も、日本の防衛産業の基盤強化にはつながらないだろう。ある重工メーカー幹部はこう指摘する。

「武器輸出を積極的に推し進めて市場を拡大することで、日本メーカーの生産量が増えるので、その分防衛省向けの価格を抑制しろということでしょうが、メーカーとしては簡単には了承しづらい」

その意味は、実際、海外に武器を輸出して数量的に増えても、メンテナンス対応などを考慮すれば、そんなに利益が出るものではなく、赤字に陥るリスクもあるということだ。

最終的には入札競争で仏企業に敗れたが、オーストラリア向け潜水艦の売り込みでも、メーカーの本音は「現地対応を考えればコストに見合わない」だったようだ。しかも、入札に絡む現地の情報戦で日本側は完敗した。国益が絡む軍事ビジネスは、「平和ボケ」の日本が思うようにできるほど簡単な商売ではない、ということだ。

そもそも、オーストラリアのターンブル首相は「親中」であり、そこに日本の潜水艦を出していいのかといった議論がもっとあっていいはずだ。もし日本が入札で勝っていたら、日本の潜水艦技術がオーストラリア経由で漏れるリスクもあったであろう。

太平洋進出を目論む中国海軍は、「スターリングエンジン」などを搭載する優れた日本の潜水艦技術を分析したいと言われているのだ。防衛省内には「オーストラリアに潜水艦を売り込むのは絶対に良くない」といった意見もあったと、同省OBがいう。

やっていい武器輸出と、避けるべき武器輸出が、戦略的に判断されていないのではないか。

現在、三菱重工に限らず、他の重工メーカーやNECといった日本の防衛関連企業の経営は決して楽ではない。民間企業である以上、自助努力で経営を成り立たせることが大前提ではあるが、防衛産業基盤を維持・発展させるための国家戦略を持つことも重要な時代に突入している。それも安全保障政策の一部と言えるのではないだろうか。
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