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中国、「錯誤」米国次期大統領を待ち構える「傲慢国家」の戦略

勝又壽良の経済時評 2016-10-10 05:00:00

米国を「老大国」と見誤る 中国を押し返すには蛮勇も

オバマ米大統領の「温和主義」が、中国を錯誤させている。南シナ海問題でもそれが顕著だ。オバマ・習会談の際、習氏は南シナ海に軍事施設をつくらないと約束した。それにも関わらず、埋め立て地に軍事施設を建設して、既成事実化させてしまった。中国がこうして米国を甘く見る原因は、米国を軍事的に恐れないという「錯覚」があるとの指摘が出ている。これは、中国が軍事的な暴走をする潜在的な要因であり、オバマ大統領の「事なかれ主義」が招いたものと言えそうだ。

オバマ大統領はもともと、社会派政治家とされている。むやみやたらと軍事力を振り回す大統領は困るが、「何ごとも話し合い」という温和路線も相手国を誤解させる危険性を伴う。故ケネディ大統領が今なお高く評価されるのは、危機に臨んで「一歩も退かない」という強さが「対ソ連危機」を未然に防いだ。

この伝で言えば、オバマ氏は、対中国戦略で足元を見透かされている。「口だけで軍事行動には出てこない」という見方から、中国は南シナ海や尖閣諸島で好き勝手な行動を始めている。これを押しとどめるには、相当のエネルギーを必要とするのだ。米国が早くから少しずつ警戒姿勢を強め、軍事行動に移る姿勢をとっていれば、ここまで中国を増長させることもなかったはずである。米国の次期大統領は、中国の抱く対米の「誤解・錯覚」をいかに正常化させるか。これが大きな課題と指摘されている。

米国を「老大国」と見誤る

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、「次の米大統領を待ち受ける中国の真の脅威」と題して、次のように論じた。

オバマ大統領の任期8年の対中国戦略は、前半が宥和、後半が対立という図式であろう。軍事面よりも経済面、例えばTPP(太平洋経済連携協定)によって、対中包囲網の構築を意図していた。肝心の軍事面では対立よりも話し合いという前半の宥和戦略を引き継いでいたようだ。これが、中国を誤解させた。米国は争い事を嫌っているという誤ったメッセージを与えた。ならば、中国は好き勝手なことをしても「大事=開戦」にならないと見て、大胆な行動に出てきたのだろう。

第二次世界大戦も、自由主義諸国の対ドイツ宥和政策が災いして傷を大きくさせた。当初、欧米各国はヒトラーの侵略行為を見て見ぬ振りをしていた。第一世界大戦後のことでもあり、静観していたのだ。これがヒトラーを増長させ、次々と侵略行動を拡大させた。後に米国が参戦せざるを得ないほど戦禍が拡大した。自由主義諸国は、対ヒトラー作戦の「初動判断ミス」が大きく響いて手遅れになったのだ。今回の対中国戦略も「初動」ミスが指摘されている。

米国は、早い時点で中国の南シナ海での埋め立てを中止させるべきだった。それを放置してきた責任は大きい。米国は世界の警察官ではない、などと言わなくても良いことを発言して、中国に付け入る隙を与えた。極めて不用意であったのだ。中国は少しでも目を離すと、その隙を衝いて侵略してくる国家である。この事実を忘れた、オバマ大統領の認識は甘かったと言うほかない。やはり、根っからの政治家でなく社会派弁護士上がりの弱点を抱えていたのだ。次期米大統領は、中国が米国に抱くこの誤解を糺さなければならない。

(1)「トランプ氏は9月26日夜に行われた民主党ヒラリー・クリントン候補との討論会で、中国の脅威を取り上げた。トランプ氏は中国が米国の雇用を奪っている為替操作国だと主張。中国は、『これまでで最もそれが得意だ』と述べた。 ただ、トランプ氏の戦い方は時代遅れだ。敵の武器と戦術は変化した。11月の大統領選で勝つのが誰であれ、中国から突きつけられる課題には直面しなくてはならない。そしてそれは、トランプ陣営の主張よりはるかに強力かつ複雑だ。トランプ氏は中国が投げかける競争上の脅威について、誇張していないどころか甘くみている」。

トランプ氏の中国脅威論は、経済面での話しであって、雇用を奪われたというレベルである。事態はもっと深刻である。中国は過剰債務を抱えているが、それを「負担」と考えていないのだ。過剰設備を潜在的な軍事力として捉えている。いざ、米国と開戦の場合、未稼働設備をフル稼働させれば、軍事的に対抗できると考えている節がある。このように視点を変えると、中国は軍事的な側面から過剰設備の破棄には応じないかも知れない。口先では、過剰設備の廃棄を行うとしているが、できるだけ遅らせるだろう。

(2)「最も大きな変化は、心理的なものかもしれない。中国の指導部は08年のリーマン・ブラザーズ破綻で、米国の全盛時代が終わったと確信したのだ。次の米大統領が向き合わなくてはならないのは、止められぬ優勢を確信している中国だ。同国はもはや、為替操作や鉄鋼のダンピング(不当廉売)によって米国主導の世界貿易システムを翻弄(ほんろう)しようとしているだけではない。新しい中国は、規則を制定する側に回ろうとしている。中国は世界最大の産業の多くを握っており、中間層の拡大は世界成長をけん引する製品やサービスのイノベーションを促している。中国市場へのアクセスは新たな主戦場となったのだ」。

中国指導部は、2008年のリーマンショックで米国の経済的な全盛期は終わったと見ているのでないか。代わって、2010年に中国はGDP世界2位に躍り出た。今後の中国経済は米国を追撃できる。そう皮算用を弾いている。それが、米国を甘く見ている背景だろう。この中国の描く「夢」は、まさに夢に終わる。ただ、合理的な思考に不慣れな中国は、いったんそう思いこんで軍拡に励んでいるだけに、その勢いをいかにして食い止め、中国を正気に戻させるかだ。これは、大変に難しい作業であろう。TPP(環太平洋経済連携協定)が発効すれば、中国の「妄念」は正気に戻る可能性もある。だが、TPPは米国内で反対論が強ければ、中国にさらに付け入る余地を与える。米国民がトランプ氏の言動に惑わされていると、自由主義陣営にとって大きなダメージを受けるだろう。

中国を押し返すには「蛮勇」も

(3)「トランプ氏あるいはクリントン氏は、米国より下という立場を受け入れる気はもうないと強調したがっている中国の指導者から試されると思っていいかもしれない。そのメッセージは、軍事的な挑戦の形になる可能性もある。中国には最近、南シナ海のスカボロー礁で新たな施設の建設に動いているふしがある。米軍が使う基地やマニラを射程内に収める場所だ。または、軍事面ではなく、米国が主導してきた国際機関をあらためて攻撃する形になるかもしれない。米政府が世銀のライバルとみなすアジアインフラ投資銀行(AIIB)の成功を足がかりにする格好だ」。

中国は、米国に対して軍事的な挑戦を行い、「米中対等論」を打ち出し、米国の言い分を一方的に聞かされる立場を拒否してくるであろう。米国の次期大統領は、この中国の挑戦をどう裁くかである。米国が、中国の軍事行動を断念させるには、宥和的な姿勢を捨てて挑戦を受けて立つ体勢を示すことだ。中国は弱いと見た相手に対して、徹底的に強気で出てくる国である。韓国の「THAAD」(超高高度ミサイル網)設置に対して、中国は猛烈なブラフ(脅迫)をかけている。「即刻、(軍事)行動に出る」、「中国は言ったことを必ず実行する」という威嚇ぶりである。

中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、参加国が全部で77ヶ国に上がり、日米主導のADB(アジア開発銀行)の67ヶ国を上回る勢いだ。中国が勧誘している結果だろうが、AIIBは未だに正規の債券を発行できずにいる。日米が参加しないAIIBでは、債券格付けが低くい結果だ。こうなると参加国数の問題でなく、日米が参加しない限り、AIIBの債券は「ジャンク債」扱いで高利での発行を余儀なくされる。よって、日米が参加しなければ、ADBが貸出金利面でAIIBに対して、有利な立場にあることに変わりない。

AIIBが象徴的な例である。中国が、経済的に日米に対抗することは不可能である。国際金融市場での中国の信頼度が低いからだ。中国は、IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)から金融危機の警告を受けている。その中国が、後ろ盾になっている「AIIB債券」は、低利で発行できるはずがない。過剰債務に陥った中国経済が、早期の立ち直りは不可能である。中国政府は、この点について認識が希薄である。ただ、過剰設備を抱えていれば、戦時には有利といった万に一つの「夢物語」にしがみついている。いざ、戦時となれば、資源の輸入はストップする。過剰設備を稼働させる原材料が不足するのだ。世界から経済制裁を受けて立ち往生するに違いない。自滅への道である

(4)「中国は輸出と投資が中心の経済から国内消費とサービスを軸にした経済への移行に向け、より価値の高い製造業と新興技術に軸足を置いている。それは、ロボット工学から人工知能(AI)まで、あらゆるものを意味する。同国が9月25日に運用を開始した世界最大の電波望遠鏡には、遠く離れた星からの信号、そしておそらく地球外生命までをも探す能力がある」。

2025年目標で、「産業強国」とかいうアドバルーンを上げている。得意の宣伝工作だが、自前技術があるわけでなく、外資依存の産業育成である。自由主義圏との政治的な対立が激しくなって来れば、これら「夢プロジェクト」は到達不可能であろう。こういう微妙な点が、考慮の外に置かれている不思議な国だ。要するに、中国は真の同盟国を持たず、孤立した立場にある。そのことの「リスク」を棚上げして、軍事的な強攻策をとる危険性を忘れている。日本の特攻隊と似た精神風土にあるようだ。

(5)「この種のプロジェクトから勢いを受ける一方で、中国の指導層は膨大な銀行債務、大気汚染、年金の積み立て不足など、古い経済が生んだ負の遺産とも格闘している。米国の製造業界は苦戦しているかもしれないが、国全体としては良質の特許、ライセンス料、大学ランキング、資金の厚みなど、どの面からみても、中国は米国に近づいてすらいない。本当の脅威は、米国が桁外れの優位性を浪費していることだ。米国の心臓に向けられた短剣があるとすれば、それを握っているのは米国自身の手だ」。

中国は意欲的なプロジェクトを掲げている。その資金はどこから調達するのか。債務であろう。現在ですら過剰債務で身動きできないところへ、さらなる債務の積み増しだ。中国は冷静になれば、米国に挑戦して勝てる相手ではない。そういう合理的な判断力さえ失っているのだ。米国の「本当の脅威は、米国が桁外れの優位性を浪費していることだ」と指摘している。米国はあらゆる面で中国をリードしている。そのアドバンテージが、無駄に使われているのだ。

米国の対中国外交の事なかれ主義が、中国を増長させ米国に勝てるという錯覚を与えてしまった。中国の増長がここまで膨らんでくると、米国の持つアドバンテージの効果が薄れてしまうのだ。中国を正気に戻すには、このアドバンテージを全面に出して、中国を諦めさせることが肝心である。そのためには、事なかれ主義を捨てて、時には正義の軍事行動をする位の気迫を示すべき時だ。これが未然に「大事」を防ぐ道であろう。
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