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トランプが中国を挑発する、その真意を読む その外交手腕は天才的か、それとも素人か

東洋経済オンライン / 2016年12月24日 11時30分 富坂聰

いまだ全貌のみえない「トランプ外交」。しかし突然、台湾の蔡英文総統と電話会談し、南シナ海における中国の行動を強く牽制する発言に、これまでと違った「米中激突」の予感を覚えた人は、少なくないのではないでしょうか。

はたして予測不可能な「トランプ外交」は天才のなせる技なのか、それとも奇をてらった素人の所業か。もしほんとうに米中関係が悪化すると、世界はどうなってしまうのか。『トランプVS習近平 そして激変を勝ち抜く日本』の著書もある、富坂聰氏が、その真意を読み解きます。

ジャブを飛び越えた渾身のストレート

米国のトランプ次期大統領は、12月2日、台湾の蔡英文総統と電話で会談したと唐突に自身のツイッターに投稿した。「アメリカから多くの兵器を購入している台湾の祝意を受けるべきではないというのは興味深い」とも綴ったと伝えられた。

米国が1979年に台湾と断交して以来、次期大統領と総統が電話で会談したことが明らかになったのは、初めてだ。

このニュースが世界に与えた衝撃は大きく、オバマ政権は対応に追われた。ネッド・プライス報道官は「中台関係をめぐる長年の政策に変更はない」との声明を発表。「米中間の3つの共同コミュニケに基づく『ひとつの中国』政策を堅持する」と断じた。ケリー国務長官も同じように、困惑気味に「国務省は事前に何の助言の要請も受けなかった」とトランプ氏の行動に懸念を表明した。

中国も、いまだ過剰な反応はみせてはいない。党中央機関紙『人民日報』は、〈「小細工」は中米関係の大構造を変えられない〉というタイトルで記事(日本語版 1016年12月5日)を掲載し、そのなかで〈トランプ氏がまだホワイトハウス入りしていないことを考慮し、しばらくは今回の通話事件を性質の悪い「小細工」と呼ぶ〉と静観する姿勢を示した。
 
興味深かったのは同じ記事の中で、〈「米国優先」は中国の核心的利益を損なうことで実現しなければならないという意味ではない。中米間には確かに競争の一面があるが、依然共通利益が主導しており、協力が主流だ。戦略対立を避ける双方の意向は強く、国際社会も中米が連携してグローバルな試練に対処することを一致して期待している〉と、協力関係の重要性を丁寧に説いていることだ。

背後には、トランプ氏があまりにも思い切って一線を踏み越え、さらに台湾総統である蔡英文をプレジデントと呼んだのだから、中国側が面食らった様子も読み取れた。もともと米国と諸外国との関係に「予測不能性」を持ち込む必要性を公言していたトランプ氏とはいえ、ジャブを飛び応えていきなり渾身のストレートを打たれたような衝撃が中国側にあったことは否めないのだろう。

レッドラインを越えてしまったトランプ

さて、ここで少し対中国外交における台湾問題の位置づけについて整理しておこう。

国と国との交際は、時に、形式的で意味のないものだと人の目には映る。われわれが台湾問題を考えるとき、台湾を「国」ではなく「地域」として扱うのは、現実とのズレを意識させる。実際、台湾には政府があり、他国の主権が及ばない領土に国民も抱えている。日台間には、中国に遠慮しながらではあるが交流もある。

どう考えても大使館か領事館でしかない組織を「台北駐日経済文化代表処」と呼んでいることを、「ばかげた茶番」と思う人がいたとしても、不思議ではない。

だが、政治家や政府高官がこれを「茶番」ということはない。彼らには、それだけ高い見識が求められているからだ。見識とは、最少リスクで最大の利益を自国にもたらすために、国際社会のなかで無用な摩擦を避ける知恵のことであり、その反対は、感情的な対立を煽り、無益で巨大な犠牲をもたらすことだ。

国と国の関係の基本とは、“疑心”である。互いに相手の真意を知る手段はなく、たとえ知ることができても、それは永遠を担保しない。そうした中で本来なら、相手から徹底的に攻撃力を奪い、安心したいはずだ。しかし、それをしないのは、お互いが「破壊に見合う利益がない」という認識を共有している、という安心感があるからである。その安心感を確認する意味で一線を設け、不安を払拭する形式的なやり取りを繰り返すのだ。

互いに対立しながらも首脳同士が合えばとにかく笑顔で握手するのはそのためで、同じように互いの原則を確認し合う。そして米中関係においては、「ひとつの中国」という確認こそが、これに当てはまる。言い換えれば台湾問題は、中国が米国の認識を確認する、重要な一線であったのだ。

そのレッドラインを今回、まだ大統領就任前とはいえトランプ氏が越えたのは、明らかにひとつの「見識」を飛び越えた行為であった。

外交に見識が欠かせないのは、もし国民レベルで互いの疑心に火が点けば、中国にとってもそれと敵対する国にとっても得のない戦いに発展し、しかも一度始めたら双方がやめられない惨劇につながりかねないからである。

疑心を前提とした国際社会では、関係の破壊がたやすい反面、一度こじらせたら関係修復が容易ではないことも、見識が不可欠になる大きな理由だ。

CNNの2016年12月3日の記事によると、トランプ氏と蔡英文の電話会談は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団に所属し、トランプ氏の政権移行チームの助言役・スティーブン・イエーツ氏の手配によるものだという。

米国の外交にとっても「諸刃の剣」

この危うさは、コネチカット州選出の上院議員(民主党)クリス・マーフィーがツイッターで「戦争はそうやって始まる。もし転換ではなく、奇をてらっただけだとしても、我が国の立場を信じられなくなった同盟国は離れていくだろう。どう転んでもひどい結果だ」投稿したことからもわかる。

中国は前述のように、それを重大な問題とは受け止めていない。この問題を伝えたCCTVの番組では、「トランプ氏は中国のことも外交も知らない」と繰り返した。その言外には、大統領となり見識の縛りを受ければ、自然に解決する問題と考えていることが伝わってくる。

要するに外交素人だということだが、それは彼が、電話会談 と武器購入の実績を同列にしていることからもうかがえる。さらに顕著なのは、それとほぼ同じ時期にツイッターに投稿された以下の書き込みである。

「中国が(米企業の競争が厳しくなる)通貨切り下げや、中国に入る米国製品への重い課税(米国は中国に課税していない)、南シナ海の真ん中での大規模な軍事複合施設の建設を、われわれに了解を求めてきただろうか。そうは思わない」

南シナ海問題で大規模な軍事施設をつくるのは、領有権を争う国々にとって問題だが、本来、米国の了解が必要なものではないだろう。このトランプ氏の一言は、たしかに米国の本音である。しかし、オバマ政権がフィリピンと中国という対立の構図を演出しつつ、その背後で巧妙に自国の利益拡大をはかってきた、その慎重さを根底からぶち壊してしまう一言でもあったのだ。

中国と領有権を争う他の東南アジアの国々にしても、こんな風にあからさまに米国の次期大統領が発言すれば、今後の同海域での米国の動きを警戒しないはずはない。

従来の見識に縛られないトランプ氏は、今後も中国を戸惑わせる発信を続けることになるかもしれないが、それは米国外交にとってもダメージを与える両刃の剣となるのかもしれない。
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