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中国、「鈍感」トランプ氏を恐れない「5つの理由」は時代遅れ

勝又壽良の経済時評 2016-12-25 05:00:00

     エコノミック・ショート・ショート

次期米国大統領トランプ氏が、「一つの中国論」に縛られないと、「台湾カード」を切った。これに対する中国の反撃が少しずつ始まっている。中国へ進出している米自動車のGMを独占禁止法違反の疑いで調査に着手した。また、南シナ海では米海軍の無人潜水機を窃取する事件を引き起こした。米国はすぐに返還を求めて解決した。中国は処理を誤ると「小火」に収まらず、大事になるリスクと隣あわせの行動を始めている。

中国は、「メンツ」の国である。トランプ氏から「一つの中国論」を否定されるような発言が飛び出すと、黙ってはいられない。例によって、嫌がらせの「小細工」が始まったようだ。過去8年間、オバマ政権の「弱腰」にすっかり馴れきって、米国を甘く見ている節が窺える。中国外交の特色は、相手国を低評価し始めると、それが膨らんで行くという「強気バブル」の特色がある。すでに、日本を甘く見て傲慢な振る舞いを見せている。これが、米国にも向けられている気配が濃厚だ。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月15日付)は、「米国を恐れない中国、5つの根拠」と題する寄稿を掲載した。筆者は、スティーブン・セスタノビッチ氏。コロンビア大学教授で米シンクタンク外交問題評議会(CFR)のシニアフェローも務める。

セスタノビッチ氏は、1週間中国に滞在し、政府関係者や元関係者、起業家、ジャーナリスト、非政府団体の代表、そしてシンクタンクの研究者などと話す機会を持った。彼らは意外にもトランプ氏に対し、全体としては好意的な意見だった、という。中国の人々がトランプ政権との関係をあまり悲観視していない理由には、以下の5つの根拠があると指摘する。

中国では、トランプ氏が旧来の慣行にこだわらず、彼の考える「イノベーション」(良い意味でも、悪い意味でも)を実行しようとしていることに気づいていないことが分かる。儒教文化が過去回帰型であるという私の解釈から言えば、中国の対米観は遅れていることが気にかかる。これが、一層の摩擦を拡大する要因になるのだ。過去8年の「弱い米国」が、「強い米国」に変わろうとしている点を無視して、中国は傲慢な態度を取り続けると、「大火傷」を被る危険性を察知することだ。

(1)「中国は強国だ :確かにトランプ氏は中国とのこれまでの関係を再考するかもしれない。しかし、だからといってそれがすべての終わりを意味しない、という意見があった。今の中国は米国に対抗する手段を数多く持っている。そのうち米国の国民も目を覚ますだろう、というのが彼らの考えだ」。

中国は強国であるという「自惚れ」は、これまで聞き飽きるほど聞かされてきた。中国の指す「強国」とは、具体的に何を指しているのか。軍事力か。その点では、米国が中国のざっと3倍の力を持つ。経済力(GDP)は、長期戦でも戦わない限り、米中の「強国比較」に大きな意味はない。同盟国の力では、圧倒的に米国が有利である。中国は、地球上で米軍基地に取り囲まれている現実を忘れている。「いざ」となれば、中国がすこぶる不利な状況にあるのだ。

米国主導で経済封鎖に合えば、「第2のロシア」である。ロシアによるクリミア半島の領土拡張が、欧米からの経済封鎖をもたらした理由だ。中国も同じ運命に合う。その途端に、貿易は激減して、中国国内は騒然となる。不満分子や少数民族が立ち上がるだろう。共産党政権は滅亡の危機を迎える。こんな脆弱な「強国」が、世界にあるだろうか。民主政治で選ばれた政権ではない。これが、中国共産党が抱える根本的な弱点である。

(2)「米国には制約がある:中国に立ち向かうにはお金がかかるという声もあった。商務省の元当局者は『今後米国は南シナ海のパトロールを強化するかもしれないが、それにはお金がかかる』と指摘した。トランプ氏は、米国防総省の予算を大幅に増額する方針を固めていると筆者は伝えたが、その予算がさまざまなことに使われ、多くは中国に影響を及ばさないことを誰もが知っていた」。

米国が2008年のリーマンショックで財政的な負担を負った。それでも、米国の現在の軍事費は中国の2.5倍である。軍事技術のレベルも異なる。中国が、戦争を仕掛けて勝てる相手ではない。アジアを舞台にした米中の軍事衝突は、当然に自衛隊も共同作戦に加わる。海上自衛隊の対潜哨戒能力は世界一とされる。中国海軍の潜水艦部隊は、渤海湾から出られないままで海上封鎖されるはずだ。中国のミサイル攻撃には、THAAD(超高高度ミサイル網)が対応する。要するに、科学技術力の低い中国人民解放軍が、世界一、二位の日米と真っ正面から戦う無益を知るべきだろう。

(3)「ビジネスマンは実務的だ:中国は過去30年にわたって経済拡大を続けているが、それはイデオロギーの放棄を持って成し遂げられた。トランプ氏もビジネスマンとして成功を手にしており、実際は、現実主義者であると筆者は聞いている。トランプ氏がニクソン元大統領のような『狂人』像を作り上げればメリットがある、とあるジャーナリストは話していた。しかしほとんどの人は、そのイメージはすべて見せかけのものだと確信をしている」。

トランプ氏は、生粋のビジネスマンである。その点で、中国も1978年の改革開放政策以来、イデオロギーを捨てて、ビジネスに徹しているから同じ土俵に乗っている。つまり。米中は対立よりもビジネスマインドで話し合える共通基盤があるわけだ。ただ、トランプ氏は、そのビジネスが「公平な土俵」でなかったと指摘している。中国は未だに、管理型変動相場制と資本移動に制約をかけている。保護貿易主義でもある。トランプ氏は、ここを問題にしているのだ。

トランプ氏の最終目標が米国の貿易赤字縮小にあるとしても、それを達成するための「小道具」として外交戦術が使われることが想像できる。南シナ海での違法埋め立てや軍事基地化は、米国との「約束違反」として厳しく追及されても仕方ない話なのだ。中国は常設仲裁裁判所から、南シナ海の領有権を違法として否定されている国である。その無法国家が、いかなる手法を用いて、自らの正統性を証明するのか。できるはずがない。

(4)「官僚と利益団体の存在:選挙期間中には中国を批判しながら、当選後はその姿勢を改める大統領が過去にもいた。中国の人々はその変貌ぶりを目の当たりにし、なぜそのようになるのかを分析をしている。米政府の省庁は新たなアイデアを封じ込めることにたけている、というのが彼らの答えだ。トランプ氏のように政治経験のない人物が、議会や連邦政府の官僚の影響を避け続けるのは難しいだろう」。

今回、トランプ氏の元に集まった人々は、共和党の対中強硬派である。それに、元軍人や経営者が加わった「異色の政権」である。特に8年にわたるオバマ政権の対中外交は、「中国流」に対して譲歩を重ねすぎてきたという根本的な反省がある。従って、今後は「米国流」を押し出して、失地回復を図るというスタンスだ。この点の認識不十分さが、中国側の甘さである、「過去回帰型文明」の欠陥を表している。米国の新外交戦略を想像できないのかも知れない。

(5)「習慣と相互利益:ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が北京を訪問してから45年が経過した。中国のあらゆる層の人は、この間に両国が相互利益を生み出せる関係を築き上げられたと考えている。『ウイン・ウイン』という考え方は、中国でも支持を集める。逆にそのような関係が崩されるとは、あまり考えられていない。どこの国の人であっても、変化を拒む思いは強い。しかし、ここまで大きな出来事が今年は起きたにもかかわらず、今後も現状維持の政策が続けられるだろうと考える中国の人々には、驚きを覚えた。トランプ氏は多くの有権者に対し、時代遅れの政策は廃止する決意であると訴えかけた。そのことも中国の人々には話したが、中には『ウイン・ウインですら廃止されるのか?』と聞き返してくる米国通の人もいた」。

キッシンジャー氏は、米中外交の「父」とも言える役割を担ってきた。氏は、米中復交の際、周恩来と肝胆相照らす「友情」を築いたからだ。周恩来は、毛沢東と違って根っからの「平和主義者」である。だが、それは中国共産党本流のイデオロギーではない。習近平氏と周恩来との思想には、180度もの違いがある。キッシンジャー氏は周恩来思想が、今なお中国に生きていると錯覚している。「平和的台頭論」は、習近平氏によって取り消されている。中国は帝国主義の行動に転化したのだ。

オバマ氏は、このキッシンジャー思想に大きく動かされてきた。その失敗が、中国から軽んじられる米国となった。トランプ氏は、このキッシンジャー思想を無視している。拒絶しているとも言ってよい。先に、両氏は会談したが、トランプ氏はツイッターで「つまらない話だった」とつぶやいたほどだ。これで、キッシンジャー氏の位置がどこにあるか分かるはずだ。

米中の「ウイン・ウイン」という話は、キッシンジャー路線である。冷戦時代、米中が手を携えて旧ソ連と対抗した時代のことだ。時代環境が大きく変わってきた現在、「ウイン・ウイン」の共通基盤は消失している。安保面では中国のウインが、米国のロスとなりかねない時代である。この現実をしかと見据えることが必要だ。南シナ海の中国進出が、「ウイン・ウイン」路線の失敗を象徴している。
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