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中国、「対米100日計画」米に金融面で要所を握られている

勝又壽良の経済時評 2017-06-01 05:00:00

金融面で大譲歩した 軍事面で対抗力なし

トランプ米大統領が、選挙運動中に繰り返し主張してきた対中国の関税引き上げ問題は、今回の米中間で取り決められた「100日計画」では、影も形もない、ごく平凡な内容に終わった。よく、これで米国は矛を収めたものと感心する。だが、米国は大きな狙いを込めている。中国経済破綻後に備えて、中国国内での不良債権を買いたたいて、大もうけする狙いが込められているのだ。米政権には、ウォール街の「ボス」が枢要ポストを占めている。「100日計画」の影で、大きな金融的な野望が秘められている。これを見落としてはいけない。

米国のもう一つの狙いは、中国をして北朝鮮問題解決に全力を挙げさせる魂胆である。2016年の米国貿易赤字の47%(3470億ドル)が対中国である。その赤字をカバーするには、今回の「100日計画」では甘すぎる。当然、北朝鮮問題で中国に汗をかかせる狙いが込められている。

中国がもし、北朝鮮問題において真摯に対応しなければ、南シナ海問題で手を抜かない、という脅しもかけている。現に5月25日、米海軍の駆逐艦「デューイ」が、南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ(約22キロ)内を航行した際、中国には領海を主張する権利がないことを示すため、「機動演習」も行ったと明らかにした。米国は、硬軟取り混ぜて中国に手を打っているのだ。

金融面で大譲歩した

米中両政府が5月11日、貿易不均衡の是正に向けた「100日計画」の具体策を発表した。中国は農業や金融分野で米国勢に市場を開放し、米国側は中国の国家事業であるシルクロード経済圏構想「一帯一路」に協力する等である。ただ、一帯一路会議に出席した米代表団は、真面目に取り組まなかった。

その、具体的な内容を示したい。

① 中国は、米国産牛肉を輸入。米国は、中国産鳥肉輸入へルールづくり(7月16日まで)
② 中国は、米国の液化天然ガスを輸入しやすくする。
③ 中国は、米国企業に格付け・電子決済・債券引き受けの各業務を開放(7月16日まで)
④ 米国は、中国の「一帯一路」の重要性を認識、関連会議に代表団を派遣
⑤ 鉄鋼の過剰生産能力問題でも成果を得るように双方で努力
⑥ 100日計画に基づく「1年計画」を策定
(以上は、『日本経済新聞』5月13日付による)

前記の6項目で注目すべきは、③「中国は、米国企業に格付け・電子決済・債券引き受けの各業務を開放(7月16日まで)」である。しかも、7月16日までと期限を設けている。米国が、どれだけ焦っているかを問わず語りに示しているのだ。

中国は、格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスから5月23日、中国の自国通貨建てと外貨建て格付けを『AA3』から『A1』へ1段階引き下げられている。経済成長が鈍化し、債務の拡大が続くに伴い、向こう数年で財政面の健全性が低下するとの見通しが、格付けを引き下げた理由である。米国政府は、ムーディーズから中国の格下げの情報を得ていたはずだ。その正式発表前に、米国企業に格付け・電子決済・債券引き受けの各業務を開放させる約束をさせていたのだ。

よく考えてみれば、貿易赤字改善目的の「100日計画」に、金融サービスの開放項目を入れているところが、米国の巧妙なところだ。中国は現在、企業部門の抱える債務総額が、対GDP比170%を超えている。金額にすれば、約18兆ドルにもなる。この分野へ、米国の格付け会社が進出するほか、電子決済や債券引き受けも行えるのだ。まさに、米国はどさくさ紛れに、宝の山へ足を踏み入れたと言える。米商務長官は、「歴史的成果である」と発言したが、この金融項目を見ればその通りであろう。

中国国内の格付け会社は、一口で言えば未熟である。賄賂をもらえば高い格付けを出すといういい加減さである。中国経済が破綻して大量の不良債権が出る時点で、国際市場でその破綻企業の大幅にディスカウントされた証券が売られて、資金回収が始まるはずだ。その際、米系資本の国際格付け企業による「値付け=格付け」が、世界の標準価格となって債券市場に出るのだろう。米国には莫大な利益が転がり込む計算だ。平成バブル時に、「ハゲタカ・ファンド」が日本へ集まった。あの情景を思い起こせばよい。以上は、私の解釈である。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付)では、社説で「対中貿易合意、トランプ政権に一定の成果」と論評した程度である。

(1)「ウィルバー・ロス米商務長官は5月11日、米中両政府の貿易不均衡是正に向けた「100日計画」の一環として中国と10項目の貿易促進策で合意したと発表した。その際、ロス長官はちょっと驚くような主張をした。これほどの『超人的な偉業』は『米中の貿易関係の歴史上かつてなかった』とし、両国関係を『新たな高み』に押し上げたと自画自賛したのだ。大仰な表現は、ドナルド・トランプ米大統領の政権運営がいまだ順調とは行かず、何らかの政治的勝利を必要としているためだろう。しかし、行き過ぎた誇張はしっぺ返しを食らいやすい。今回の合意も貿易専門家から早くも疑問の声が上がっている」

この社説でも、ロス商務長官の「超人的な偉業」、「米中の貿易関係の歴史上かつてなかった」、「両国関係を新たな高み」という発言について戒めているほどだ。「行き過ぎた誇張はしっぺ返しを食らいやすい。今回の合意も貿易専門家から早くも疑問の声が上がっている」と釘を刺している。だが、先に私が指摘した、金融面での中国進出は、「超人的な偉業」と言って差し支えあるまい。

(2)「このディール(取引)は地味ながらも潜在的な意義は大きい。中国側の最も重要な2つの約束は、米国産牛肉の輸入を解禁し、米決済ネットワーク大手、ビザとマスターカードの中国市場への参入障壁をなくすことだ。こうした約束は前にも聞いたことがある。李克強首相は昨年9月、牛肉輸入を『まもなく』再開すると述べていた。2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した際には、銀聯(ユニオンペイ)による中国決済ネットワークの独占状態を解消するとしていた。それでも今回、7月という期限を設けたのは新しく、目前の時期であることは勇気づけられる」

この記事では、米国の格付け企業の中国進出や債券引き受けについては触れていない。一番「うま味のある」ところを見落とした記事である。WSJの記事としては珍しい。ただ、銀聯(ユニオンペイ)による中国決済ネットワークの独占状態を解消して、米系のビザとマスターカードが、中国で業務開始できるメリットは大きい、としている。

米国の対中戦略は多角的である。対中貿易赤字の改善を迫る手段が、米国には複数あるからだ。対北朝鮮問題解決と南シナ海からの中国軍撤退である。前者は短期的な目標であり、後者は中期的な目的である。

北朝鮮問題では、中国が本気で経済制裁を行うかどうかである。それを計る「リトマス試験紙」が、韓国への「THAAD」(超高高度ミサイル網)とされている。中国が、あくまでもTHAAD配置に反対するか、容認するか。それによって、中国の北朝鮮問題の「本気度」が分かるという議論が、次の記事である。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月18日付)は、「トランプ氏が対北圧力で突く中国の泣き所」と題して、次のように論評している。

(3)「中国が北朝鮮封じ込めに向けて本気で米国の新大統領と協力する意向なのかどうかをうかがい知る方法は現実にある。『韓国への新型ミサイル防衛システム配備に反対しなくなるか』ということだ。(中略)ただ中国側の視点に立つと、THAADは単に韓国を守る防衛システムではない。THAADのポイントは発射されたミサイルを探知・追跡する高度なレーダーシステムであることだ。中国は米軍が中国と対立することがあれば、中国のミサイル追跡・制圧にTHAADを使いかねないと懸念している。中国の戦略的思想は数カ月ないし数年単位ではなく数十年単位でものをみていることから、そうした懸念は意外ではない」

THAADの韓国配置はすでに終わった。年内には稼働する見込みである。中国政府は、韓国へ経済報復を続けているものの、少しずつその手を緩め始めた兆候も見られる。中国メディアが韓流の紹介記事を流し始めているからだ。このまま、中国はTHAADを認めるのか、である。

THAADは、韓国の自衛権の問題のはずである。中国の承認など不必要である。中国がしっかりと北朝鮮の核問題を管理しなかった。そのツケが今、THAAD問題として現れているもの。韓国へ報復するなど、お門違いである。将来、米中の軍事対立が起こった場合、韓国のTHAADが中国の泣き所になる懸念はある。だが、日本でも陸上型のイージス施設の設置が検討されている。日本列島に2カ所あれば、対中国情報の取得として十分と言われる強力レーダー網だ。中国の言い分は、多分にこじつけの感が強い。

(4)「それでもなお、今回の中国の対応は、長期的には賢明だが短期的には愚策に映る。北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルの準備を整え、近隣国に加えて米国を射程圏内に収めるとの観測は、中国周辺の安定にとってずっと現実的で差し迫った危険だ。米中が全面的な軍事対立に至る可能性どころではない。北朝鮮の核は、実際に使える核爆発装置を手にしている意味で既に取り返しのつかない状況にある。いま必要なのはその脅威を抑え、可能であれば北朝鮮を逆戻りさせることだ。単なる核装置から核兵器に至る工程を完了させないスピードが求められる」

中国が、THAADへの言いがかりを捨てて、韓国での稼働に賛成する。そうなると、北朝鮮問題で米国へ協力する姿勢があると読む。その含みもあって、前記の「100日計画」では手心を加えているのかも知れない。

(5)「それには、この工程を続けることで支払う代償は、それによって得られる戦略的優位を上回ると北朝鮮に分からせることが必要になる。ここでカギになるのが中国からの経済的圧力の強化だ。この戦略にはいずれ(今はその時ではないようだ)、北朝鮮が引き返したくなった場合に面目を保ちながら脱出するルートを提供する外交術が求められそうだ。だが一連の戦略には、北朝鮮の新たな武器のおもちゃには最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が期待するような威力はないと同国民を納得させる過程も必要になる。そこがTHAADの出番であり、中国が依然立ちふさがっている場所でもある」

THAAD稼働が、北朝鮮自身に核開発は無益であると自覚させる手段である。この理由で、中国政府はTHAADへの反対を取りやめることだ。そうなると、中国は高く評価される。もしも反対し続ければ、今後の「100日計画」で締め上げられることになろう。中国は、米国の「まな板の鯉」である

軍事面で対抗力なし

中国が、軍事面で米国へ対抗しても無駄である。

『大紀元』(5月28日付)は、「中国海軍VS米国海軍、簡単には埋まらない実力差」と題して、次のように報じた。

中国海軍と米国海軍の実力には、実際のところ、どれほどの違いがあるのだろうか。香港の英字新聞『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は、中国の軍事専門家、李傑氏による両国海軍の実力についての分析を報じている。

(6)「李氏によると、米国海軍は現在、就役中の空母10隻を有しているほか、100年余りの経験とノウハウを有する海軍組織を有しており、それと比べると、中国海軍の乗組員は『幼稚園児』レベルでしかないと指摘している。同氏の話では、米国海軍は高完成度の艦載機航空作戦システムを構築しており、全天候型で艦載機の高密度離発着や、空母打撃群内の各艦艇との連携もカバーしている」

艦載機の空母発着は、極めて危険な操縦とされている。米海軍が現在の力量に達するまでには、1000人以上の尊い犠牲者の経験が積み重なっていると言われる。そう言っては失礼だが昨日や今日、空母を持った中国が、米国に対して互角な戦いを挑めるはずがない。「幼稚園児」が、天下を取ったようなポーズをすることは危険この上ない。

(7)「中国海軍は国産空母『遼寧』に空母としての力を発揮させるために、米国の空母乗員管理運行システムをかなり模倣しているが、艦載機パイロット、着艦指揮官やその他の航空クルーを一人前に育てる難しさは、陸上で戦闘機パイロットや地上スタッフを育成するのとは比べ物にならない。空母甲板の滑走路は、陸上の滑走路のわずか10分の1の長さしかないからだ。さらに、国際基準に照らすと正規な空母には4500から5000人の乗組員が必要とされるが、中国海軍の空母に配置されている人数はそのレベルには程遠いとも述べている。李氏は、空母本体は迅速に建造できても、乗組員の育成には彼らに経験を積ませるしかないため、時間をかけて経験を蓄積してゆくしかないと語っている」

中国は、ハード面の空母を見よう見まねで作り上げたが、ソフト面での艦載機操縦は不慣れである。中国は、陸上の戦闘において犠牲を顧みない人海戦術で戦うが、近代戦では極めて弱いことが見て取れる。中国の艦載機は夜間飛行できないのだ。乗員訓練不足が理由である。こうした状況下で、米海軍への対抗は不可能である。北朝鮮問題も、米国に協力せざるを得ないのでなかろうか。肝心の中国経済が、ガタガタ状況になっている。すでに中国経済はその輝きを失った。米国に協力せざるを得ない局面と見られる。
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